五章 ゲルズ
第35話 フレイヤの姉
「見たな、私の素顔を……」
月明かりの下で、エストリエが恨めしそうにぼやく中、僕は初対面の時やチャラ男たちを斬首刑にしようと主張していた時、フレイヤさんは自らのことを「ゴッドランド王国第一王女」と呼称していたことを思い出した。
ゴッドランド王の長女は他界したと思われていたが実は生きていて、魔王と化してしまっていた……ということなのだろうか。
(結人さま、お代わりください)
色々と聞きたいことはあったものの、エストリエの素顔をフレイヤさんが知っていることだけは確かなようだったので、僕は彼女に肉体の主導権を明け渡すことにした。
(……わかりました)
「
そういえば、「エストリエの仮面を剥がす」という目的は果たされたにも関わらず、「
これは――フレイヤさんも目の前の女性を助けたいと、考えてくれている証拠だろう。
僕は安堵感と感慨深さを同時に覚えながら、パートナーに運転を代わってもらった。
「お姉さま、なぜ……?」
「フレイヤ……?」
声は僕だった時と変わらないのだが、口調の違いを感じ取ったのか、エストリエは確認するように言った。
「……はい」
「申し訳ないけど、あなたたちの質問に答えることはできないわ。だって、そういう契約だから」
そう言うエストリエ自身も、仮面を被っていた時とは口調が変わっている。
これは「須藤江梨子」の時と、同じ話し方だ。
おそらく、こちらが彼女の素なのだろう。
「性欲を奪う理由も……ですか?」
「それはあなたに話しても、理解してもらえないだろうから話さないだけよ」
「そのようなことは……」
フレイヤさんは「ない」と言い切ることができないようだった。
人一倍性欲の強い彼女は、それを否定しようとする存在のことが信じられないのかもしれない。
「今日のところは、もうやめにしましょう。こんな状態じゃ、お互い本気で戦うことなんてできないでしょうし」
「わたくしたちと和解してくださるのですか、お姉さま……?」
エストリエの提案に、嬉しそうな声で答えるフレイヤさん。
詳しい話を聞かずとも、彼女が「お
「そうは言ってないわ。『今日は』やめにしようってだけ。あなたたちとは改めて、決着を付けるつもりよ。あのお方のために、私は坂上結人を殺さなくてはならないのだから」
「そんな……」
肩を落とすフレイヤさんを見て、エストリエは一瞬、悲しそうに目を細めた後、空高く跳躍して埠頭から離脱していった。
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