第29話 河原の戦い
「ここなら良いだろう。始めるぞ」
直後、先にグラウンドに入っていたエストリエが指をパチン、と鳴らす。
すると、無数の石が独りでに川から飛来し、凄まじい勢いで積み重なり、巨人の姿を形成した。
ファンタジーRPGに出てくるような、いかにも「ゴーレム」といった風貌のそれは、以前戦ったベンチの怪物と同じくらいの大きさだった。
今、僕の視界に映っている物の中だと、サイズ的には少し大きめの一軒家が一番近い。
「フレイヤさん、行きましょう」
傍らの少女にそう呼びかけながらも、ちらりとエストリエに視線を向けると、僕の予想通り、彼女は跳躍を繰り返して撤退していくところだった。
「はい」
ひとまず安堵しながら、フレイヤさんの黒い「フュージョンクリスタル」に、自分の白いそれを合わせる。
『
そして、僕たちは異口同音に魔法の言葉を叫んだ。
直後、二人の肉体が溶け合い、自分一人だけでは決して感じることのできないような、強い快感と共に混ざり合うのが、今回はハッキリと知覚できた。
人間と人間が融合して、元になったどちらとも違う、新たな身体を形成する。
冷静に考えるとかなり気持ち悪い――おぞましいと言ってもいい現象だ。
それに対する嫌悪感を少しでも緩和するために、「
もっとも、戦いが終われば元通りに分離できる上、魂までもが混ざり合い、人格が変容してしまうようなこともないので、客観的な評価はどうあれ、僕個人としてはそこまで抵抗があるわけではないのだが――
そんなことを考えている間に、「
ほぼ同時に、ゴーレムが突進しながら拳を振り下ろしてくる。
決して緩慢な動きではないが、大振りなので回避はそれほど困難ではない。
ここは防御魔法を使うよりも、軽く身を捻って避けたほうが賢明か――
そう考えていた僕に、ゴーレムは拳を大地にめり込ませた衝撃で、手榴弾が自らの破片を飛び散らせるように、石礫を四方八方に飛ばして攻撃してきた。
「っ……!」
痛い。めちゃくちゃ痛い。
突然のことだったので、魔法を使うどころか防御の体勢を取ることすらできなかったということもあり、僕は左半身を中心に、初っ端からかなりのダメージを受けてしまった。
おそらく、生身の状態でプロボクサーのジャブを立て続けに食らった時も、こんな感覚なのではないだろうか。
できればこの痛みが和らぐまでの間、少し休憩したいのだが――
当然、ゴーレムはそんな猶予など与えてくれず、再び拳で攻撃してくる。
「ううっ……!」
呻きながらも、僕は比較的ダメージの少ない右手を突き出してバリアを形成し、その殴打を防いだ。
いや、完全に防ぎきれてはいない。
半透明の障壁には、既に亀裂が走り始めている。
もう、数秒も持たないだろう――
僕が全力で跳躍してその場を離脱するのと、バリアが粉々に砕け散るのは、ほとんど同じタイミングの出来事だった。
危なかった――と言いたいところだが、まだ危機は去っていない。
咄嗟に跳び上がったため、力加減が上手くできなかった僕は、数十キロ先まで見渡せるほどの高度まで上昇してしまったのだ(実際、フレイヤさんと一緒に住んでいるアパートがある街も見えている)。
一応、前よりは力を制御できるようになっているので、落下の衝撃を攻撃に利用して、ゴーレムにダメージを与えることも不可能ではないだろうが、先程の石礫攻撃をカウンターで食らい、やられてしまう可能性のほうが高そうだ。
そこで、僕は足元にバリアを展開しつつ着水することを選んだ。
それほど深い川ではないが、グラウンドに落下するよりはマシだろうと判断したのだ。
もっとも、中流域の割には水質が悪く、ぬめった感覚が気持ち悪かったのは想定外だったが。
(さて、ここからどうするか……)
今の僕は、ゴーレムから数十メートルは離れた位置にいる。
このまま距離を取り、痛みが引くまでの時間を稼ぐという方法もあるかもしれないが……。
いや、ダメだ。
戦いの場が川に移ったら、僕に勝ち目はなくなる。
いくら身体能力が格段に強化されているとはいえ、僕の体躯は普通の人間と変わらない大きさなのだ。
一方、ゴーレムはあの巨体である。
あちらが河原や川底の石を鷲掴みにして投げてきた場合、それは散弾銃や機関銃のような広範囲攻撃となるが、こちらが同じことをしても、拳銃のような「点」での攻撃にしかならない。
痛みで動きが鈍っていることを加味しても、グラウンドで戦うほうがずっとマシだ。
僕は即座に決断し、先程の二割ほどの力で跳躍して、運動場まで戻った。
様子を見ていたゴーレムが、即座に石礫を飛ばしてくる。
それを僕が魔法で防御すると、敵は巨体に見合わない俊敏な動きで、棒立ちしていたこちらとの距離を詰めてきた。
飛び道具はともかく、直接攻撃をバリアで凌ぐのは厳しいと、先程の応酬でわかっている。
だが、下手に回避行動を取ると、石礫を防御できなくなってしまう。
どうする?
どうすればいい?
防御か、それとも回避か――
迷った挙げ句何もできないという、最悪の選択肢を取ってしまった僕に、乗用車よりも大きなゴーレムの拳が直撃――
する寸前で、ピタリと停止した。
周囲が暗いせいでわかりづらかったが、視力や動体視力が平時より上がっているせいか、かろうじて理解できた。
僕たちの間を、一匹のカラスが横切ったのだと。
申し訳なさを感じつつも、僕は軽く跳躍して、ゴーレムの肘関節に「シールドバッシュ」を叩き込み、その右腕を破壊した。
勝負ありだ。
僕は一度着地した後、再び跳び上がり、空中で
「やあーっ!!」
そのまま、渾身の蹴りを叩き込んだ。
ゴーレムの動きが止まり、その巨体が軋み始める。
ややあって、彼――と、呼んでいいのかどうかはわからないが――を形成していた石たちが元の河原へと飛んでいき、同時にクレーターだらけだったグラウンドも、復元魔法によって元に戻った。
「お、終わったあ……」
呟き、僕はようやく気が付いた。
自分が「
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