第32話 果たし状
翌朝。
「その黒幕が魔族の生き残りなのか、邪な心を持ったゴッドランド人なのか、それとも他の存在なのかはわかりませんが……エストリエが禁忌とされる黒魔法を行使している以上、悪しき存在であることは間違いないと思われます」
朝食の最中に、僕が「エストリエの背後には黒幕がいる可能性が高い」という話をすると、フレイヤさんはそう答えた。
「…………」
悪しき存在。
本当にそうなのだろうか。
もし、黒幕が魔族の生き残りなのだとしたら、同胞を皆殺しにした「勇者」に対して強い恨みを抱くことは、至極当然のことだろうと僕は感じる。
もっとも、魔族に対して
しかし、絶対に間違っているとも言い切れないのではないか。
フレイヤさんと初めて出会った日に、彼女が愛でていた赤べこ――会津地方の名産品にちらりと目を向けながら、僕はそう考えた。
× × ×
エストリエの仮面を剥がす。
その作戦を実行するためには、今よりも強大な「力」が必要なのは明らかだった。
ゴーレムに苦戦しているようではまた逃げられてしまうかもしれないし、エストリエとの直接対決に持ち込めたとしても、接近しなければ彼女を傷つけずにその仮面だけを奪うことは不可能だからだ。
だが、あちらの「黒魔法」は着実に強化されているのに対して、こちらの「白魔法」は初めて「
どうにかして、感情の面で優位に立ちたいところだが――それは難しいと思われた。
日本の一般市民からすれば、僕たちも得体の知れない存在であることに変わりはないのだから。
それに、「信頼を得ることは難しいが、失うのは一瞬だ」という言葉もある。
動画サイトなどで配信を行うことによって、安直に人々の感情をコントロールしようとすれば、今、僕たちを応援してくれている人間からの支持すら失うことになるかもしれない。
そこで、僕たちは他の方法を取ることにした。
すなわち、「
× × ×
その日の夜、大学から帰ってきた僕が郵便受けを確認すると、そこには「果たし状」と書かれた白い封筒が投函されていた。
中身を確認すると、高級感のある和紙に達筆な文字でこう書かれていた。
『坂上結人殿
三日後の深夜〇時に、指定の場所までフレイヤ姫と共に来られよ。
そこで決着を付けよう。
エストリエ』
指定された住所をネットで確認すると、そこは海沿いの工業地帯にある埠頭だった。
深夜にそんな場所での決闘を望むとは、ヤクザ映画にでも影響を受けたのだろうか?
いや、それよりも――
彼女はバッグサーで僕たちのことを観察しつつ、この果たし状を書くために、日本で書道を習っていたというのか?
そもそも、ゴッドランドに果たし状を出す文化があるのかどうかも疑問だ。
無いのだとしたら、わざわざネットや図書館で、この国における決闘の作法について調査したのだろうか?
「結人さま、これは罠なのでは……?」
「いや、それはないと思いますよ」
僕はエストリエがあのパリピ衣装(今にして思えば、あれは彼女がイメージする「日本の若者」の姿だったのだろう)のまま図書館で調べものをしたり、書道を習ったりしている姿を想像して微笑しながら、警戒するフレイヤさんの言葉に答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます