第4話 融合変身(メタモルフュージョン)

「『融合変身メタモルフュージョン』……?」


「はい。本当はもっと詳しくお話させていただきたかったのですが……今は時間がございません。どうか、わたくしを信じて、言う通りにしてくださいませんか?」


「は……はい」


 僕は一瞬だけ躊躇ったものの、ゴーレムがゆっくりとこちらへ近づいて来ているのを見て、仕方なく首を縦に振った。


 おそらく、あの怪物は「人々の性欲を奪い、勇者の子孫を抹殺する」という主の命令を、忠実に実行するように作られているのだろう。


 日本の少子化をこれ以上加速させるわけにはいかないし、こんなところで殺されるのもゴメンだ。


 だったら――やるしかない。


 フレイヤさんのことをどこまで信じていいのかは未知数だが、少なくとも、僕のことを殺そうとしたエストリエよりは、その攻撃から守ってくれた彼女のほうが、信頼に値するのは確かなわけだし。


「ありがとうございます。では……」


 そう言って、フレイヤさんは先程取り出した黒い勾玉を、僕が首から下げた白い勾玉とくっつけた。


 白と黒、二つの勾玉が合わさって、円を描く。


 こういう図、どこかで見たことがあるような気がするんだけど、なんだったっけ。


 ダメだ、思い出せない――


「この状態のまま、わたくしが合図をしたら、わたくしと一緒に『融合変身メタモルフュージョン』と叫んでください。よろしいですか?」


「は、はい」


 フレイヤさんに尋ねられて、僕は我に返った。


 そうだ。


 今は、余計なことを考えている場合じゃない。


 とにかく、あのゴーレムに対抗するための「力」を得なくては。


「行きますよ、二、一……」


融合変身メタモルフュージョン!!』


 フレイヤさんのカウントダウンに合わせて、僕たちは異口同音に叫ぶ。


 すると――


 全身を凄まじい快感が駆け巡るのと同時に、僕の視界は白い光に包まれて、何も見えなくなった。


 なんだ、この感覚は。


 目の前に危険が迫っているというのに、身を委ねたくなってしまう。


 融合変身メタモルフュージョン――男女が二人で行う儀式。


 そして、この性的興奮にも似た快楽と、フレイヤさんの性格。


 まさか、これは……。


(いや……これ以上、考えるのはよそう……)


 僕が頭に浮かびかけたよこしまな発想を、意志の力でなんとか振り払うと、次第に快楽の波は引いていき、視界も晴れていった。


 多分、これで「融合変身メタモルフュージョン」は完了したってことなんだろうけど――今の僕は、どんな状態になっているんだろうか。


 言葉通り、フレイヤさんと「融合」して、普段とは違う姿に「変身」した可能性が高いわけだが、詳しい説明を聞く時間がなかったので、どんな姿をしているのかは、確認してみなくてはわからない。


 そこで、僕がエストリエの立っていた建物のガラス張りの外壁を見やると、そこには黒髪ロングの美少女が立っていた。


 顔立ちはフレイヤさんとよく似ているが、目の色は黒く、耳も尖っていない。


 衣装も純白のワンピースから、ゴスロリ風のものに変わっている。


 どことなく、闇属性の魔法少女っぽく見えなくもないが――あれはフレイヤさんの肉体に僕の魂が憑依し、その形状を少しだけ変化させた姿だろう。


 そう理解するのに、それほど時間はかからなかった。


 いわゆるバ美肉って、こういう感じなんだろうか。


 いや、これはバーチャルではなくリアルだから、リ美肉と言うべきか。


 僕にはその手の、女体化願望とかはないのだが――


(勇者さま、来ます)


 などと、またしてもくだらないことを考えてしまっていた僕の脳内に、フレイヤさんの声が響いた。


 どうやら、今の僕たちは、文字通り一心同体ということらしい。


「っ……!」


 拳を繰り出してくるゴーレムに対して、僕は強い防衛衝動を感じながら、両方の手のひらを突き出した。


 直後、フレイヤさんがエストリエの攻撃を防いだ時のそれよりも、遥かに大きなバリアが生成され、敵の打撃を弾き返す。


(なんだ、今のは……)


 まるで、できるのが当たり前のような感覚だった。


 フレイヤさんの肉体に、使い方が染み付いているからだろうか?


 いや、理由などどうでもいい。


 重要なのは、これならあのゴーレムと戦える、ということだ。

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