第6話 「即効魔法」と「条件魔法」
敵を倒すと、街の被害が元に戻る。
ニチアサの変身ヒロインアニメではお約束の光景だが、実際に目撃すると、ものすごく違和感があった。
こちらの世界の人間にとって、あまりにも都合が良すぎるからだ。
「おそらく、エストリエはゴーレムに『条件魔法』として、復元魔法を仕込んでいたのでしょう」
先程の現象は、フレイヤさんにとっても違和感のあるものだったようで、彼女は僕との「
場所を移動したのは、先程の公園にはまもなく、警察がやって来るのが明らかだったからだ。
「条件魔法?」
「はい。魔法には、大きく分けて二種類あるのです。即ち、発動と同時に効果が現れる『即効魔法』と、特定の条件を満たすまでは効果が現れない『条件魔法』が。前者は通常魔法、後者は遅効魔法とも呼ばれておりまして……」
「要するに、『あのゴーレムが倒されること』が、『壊れた街を復元する魔法』の発動条件になっていた、ってことですか?」
話が長くなりそうだったので、僕はフレイヤさんの言葉を遮って尋ねた。
「断言はできませんが、その可能性が高いと思われます。通常、条件魔法は罠として運用されることが多いのですが……」
エストリエの行動が解せないのか、怪訝そうな顔でフレイヤさんは答える。
「罠……」
確かに、「勇者の子孫を倒す」という目的を果たすのであれば、条件魔法として仕込んでおくのは、復元魔法よりも攻撃魔法のほうが合理的だろう。
あるいは、条件魔法を使わず、浮いた魔力でゴーレムを強化するという手もあるはずだ。
にも関わらず、エストリエはゴーレムに復元魔法を仕込んでいた。
この不可解な行動は、何を意味しているのだろう。
勇者の子孫は殺したいが、それ以外の日本人には迷惑をかけたくなかったのか。
それとも、ゴーレムを暴れた証拠を残すと、こちらの世界の国家権力を敵に回すことになりかねないと判断したのか。
(まあ、普通に考えたら後者だよな……)
エストリエは勇者の子孫以外は殺さないつもりのようだが、見ず知らずの日本人たちに、そこまで気を遣うとも思えない。
もっとも、破壊された街を元に戻したところで、監視カメラなどに映像が残っている以上、警察の捜査からは逃れられないわけだが――異世界人であろう彼女は、そこまで考えが及ばなかったのかもしれない。
「ところで、『融合変身』についても、色々とお聞きしたいんですけど……」
「失礼いたしました。勇者さまとしては、当然の疑問ですね。しかし、何からお話ししたら良いものか……」
これ以上、エストリエの行動について考えていても仕方がないと判断した僕が話題を変えると、フレイヤさんはしばらくの間、難しそうな顔で悩んでいたが、
「あっ、そうですわ。わたくしたちが持つこの『フュージョンクリスタル』も、信義公が仕込んだ、条件魔法が刻まれているのですよ」
やがて口を開き、先程使用した黒い勾玉を手にしながらそう言った。
「それを発動するための呪文が、『
「それも条件の一つではあるのですが、それだけではございません。順を追って説明いたしますと……」
フレイヤさんの長話を要約すると、要するにこういうことらしい。
一:今から約八百年前に日本のサムライ、
二:彼は後世のために、「フュージョンクリスタル」という魔法の勾玉と、その扱い方を記した古文書を遺した。
三:その「フュージョンクリスタル」の力を使い、世代を経て血と共に薄まってしまった勇者の力を増幅するのが「
四:「
「いや、一~三はまだわかるんですけど、四はおかしくないですか……?」
「そうでしょうか? むしろ、その部分こそが『
僕が疑問を呈すると、フレイヤさんは意外そうな顔をした。
「え?」
「信義公の遺した書物によると、『
陰陽思想。
そういえば、「
あの時、どこかで見たことがあるような気がしたのは、そういうことだったのか。
「夏と冬、火と水、光と闇、天と地……これらは真逆の性質を持っていますが、一方で表裏一体でもあり、どちらかが欠けた状態では、自然の摂理が成り立ちません。陽があるから陰があり、陰があるから陽がある。男女の関係もそれと同様で、どちらがいなくても種の存続は不可能です。ですから、勇者の子孫が持つ『力』と、それを受け止める『器』を上手く調和させるには、異なる性別の者同士が力を合わせなくてはならない……そういうことです」
つまり、勇者の子孫が自身の潜在能力を単独で引き出すと、強大すぎる力に耐えられず、肉体が
そこまではまあ、理解できなくもないのだが――
「でも、『体を許せる』っていうのは……」
「男女が身も心も一つになるというのは、実質的に性行為のようなものですから」
言っちゃったよ、この人。
薄々「そうだろうなー」とは思いつつも、考えないようにしていたのに。
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