第52話 魔法の適性
「お見事です、結人様」
翌日、王城の兵士の訓練に使われているホールにて、早くも「覚醒魔法」を使い、「睡眠魔法」で眠らされていた犬――なんという犬種なのかは知らないが、柴犬とシベリアン・ハスキーの雑種のように見える中型犬だ――を起こすことに成功した僕に向かって、公爵が拍手を送った。
もう一人のゲルズさんを追い詰めてしまった存在――フレイ王子も罪滅ぼしのために協力してくれないかと僕は期待しているのだが、今のところそういった動きはない。
勇者派である公爵とは違い、王子は聖書派なので、勇者の子孫である僕に非協力的な上、自分の間違いを認めることもできない、ということなのだろうか。
「ありがとうございます、公爵。それにしても……不思議ですね」
右手で犬の頭を撫で、左手でジャーキーをあげながら、僕は言った。
「不思議ではありませぬ。あなたほどの素質があれば……」
「いえ、僕は『
初めて「
「ふむ……それはおそらく、あなたの性格上の問題でしょうな」
「性格?」
「ええ。魔法を使うには、イメージが重要でしょう。そしてどういったイメージを描きやすい、抱きやすいかは当然、その人の性格によります。そして私の見たところ、あなたは他人への攻撃性が欠落している」
「そうですかね……?」
僕はフレイヤさんに睡眠薬を持った連中に対しても、かつての公爵や王子に対しても、かなりの怒りを覚えたものだが。
「そうですとも。信義公であれば、私や皇太子殿下のことなど、一刀のもとに斬り捨てていたことでしょう」
「それは僕のご先祖様が、攻撃的すぎるだけなのでは……?」
「それもあるかもしれませぬ。ですが、ご自分の命を狙ってきたゲルズやバルファスに対しても殺意を抱いていないのは、お言葉ですが……少々、異常ではないかと」
「そうなんでしょうか……?」
自分では、よくわからない。
平和ボケした現代日本の人間であれば、それが普通のような気もする。
だが、いずれにせよ、ゴッドランド人の感覚――いや、ゴッドランドの大貴族である公爵の感覚では、僕の価値観は異常なものなのだろう。
「もっとも、バルファスが力でどうにかできる相手ではない以上、それで良いのかもしれませんがな」
公爵のその言葉を聞いて、僕は「ご先祖様は意図的に、自分とは真逆の存在を選んだのかもしれないな」と思った。
現代のゴッドランド人から話を聞いていると、信義は極めて好戦的な人物に感じられるが、本当にそうだったかどうかはわからない。
英雄というのは、得てして虚実を交えて語られるものだ。
魔族を皆殺しにしたのも本意ではなく、「他に方法はなかったのか」と、迷いながらだったのではないか。
だから、子孫には武力だけを頼みにするのではなく、他の解決方法を模索してほしい――そう考えて、僕のような人間に、「フュージョンクリスタル」が渡るように仕向けたのかもしれない。
もっとも、仮にそうだったとしても、バルファスの立場からすれば、仲間を皆殺しにされたことに変わりはないし、信義の葛藤など知ったことではないだろう。
故に、僕は彼に伝えなくてはならないのだ。
「自分は先祖とは違う」ということを。
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