第16話 無防備な彼女

 フレイヤさんの状態が状態なので、バイクの後部座席に乗せるわけにも行かず、この日の僕は彼女を連れて、バスと電車でアパートの最寄り駅まで帰還した。


 ここからアパートまでは、徒歩十五分ほどなのだが――未だに目を覚まさないフレイヤさんをおぶって帰るのは、流石に難しいだろう。


 仕方ないな、と心中でぼやきつつ、僕は駅前でタクシーを呼び止めて、彼女と共に乗り込んだ。


 二人分の電車賃と合わせて、千五百円以上の出費だ。


 可能なら、あのチャラ男たちに請求してやりたいところである。


 いや、学生証の写真は撮ってあるので、しようと思えばできないこともないのだが――余計なトラブルに繋がるかもしれないし、やめておいたほうが無難だろう。


(それにしても……)


 タクシーを降りた僕は、アパートの自室に布団を敷き、その上に眠り姫を横たわらせて、掛け布団を被せながら考える。


 先程の出来事を、勇者の子孫ぼくに取り入るための芝居だと解釈するのは、かなり難しいよな――と。


 なぜなら、僕に「誰にでも股を開く女」だと思われたところで、マイナスにしかならない上に、あの男たちと一緒にいるところを、タイミングよく目撃されるとも限らないからだ。


 たまたま五限が早く終わったから間に合ったものの、そうでなかったらあのまま「お持ち帰り」されていた可能性が高いわけで。


 仮に、フレイヤさんが訓練によって睡眠薬に対する耐性を獲得しており、そうなりそうな場合はすぐさま立ち去るつもりだったとしても――やはり、ナンパに引っかかった理由がわからない。


 僕以外の人間から、こちらの世界に関する知識を獲得するのが目的だった?


 いや、それならあんないかにもバカっぽい連中ではなく、もっと賢そうな人間――教授や院生などから話を聞こうとするはずだ。


 つまるところ、彼女は警戒心が薄く、人の悪意に鈍感なため、ヤリモク男に誘われるがまま、ついて行ってしまったのだろう。


 断言はできないが、その可能性がもっとも高い。


(守りたい……)


 いや、僕が守らなくては。


 あまりにもピュアで無防備な、この人のことを。


 もしかしたら、彼女自身には悪意がなくとも、その背後にいる何者か――例えば、ゴッドランドの国王とか――に利用されているのかもしれないが、そんなことはフレイヤさんを守らない理由にはならなかった。


 その場合、悪いのはその黒幕であって、彼女に罪はないのだから。

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