第22話 父の為
俺の両親は幽霊を見ることができ、それを生かして霊を祓う仕事をしていた。2人の子供の中で唯一俺だけがその能力を引き継いだ。
結論から言うと、俺が霊を殺そうとするのは復讐の為なんだ。
霊っていうのは基本的に人間をどうとも思っていない。都市伝説なら自分の知名度を上げ、強さと寿命を得る為、悪霊なら己の欲を満たす為に人間を利用したり殺したりするくらいだ。
だから父さんと母さんは霊を祓っていた。範囲はこの町だけだったが俺はそんな2人を尊敬していたし今もしているよ。
2人は人間に敵意を持っていない霊は殺さず、人間に害を及ぼす霊だけを祓っていた優しい2人だった。悪く言えば霊に情けをかけ、甘さを持っていた。
でもその優しさが駄目だった。大切な時、非情になりきれなかったんだ。
ある時、父さんは人間を助けている霊と出会い、その霊が協力してくれるというので一緒に霊を祓っていた。勿論最初からその霊を信じていた訳じゃない。ただ手伝ってくれるなら、という程度だった。
その霊と協力して仕事をしている内に、父さん達はその霊を信用していった。その霊は夕方以外の時間仕事を手伝っていたが、一度も人を傷つけず、父さん達に協力してくれていたからだ。夕方だけ手伝わないのにはなにか理由があるのだと思い、父さん達は聞かなかったらしい。
その霊と協力し始めて数年が経った頃。ある話がこの街で有名になってきていた。
その話とは、丑三つ時にいきなり大人と子供が1日に1人ずついなくなるというもので、父さんと母さんは霊と3人で調査をする事にしたんだ。
調査の結果が出ずに数日が経った頃、突然霊が姿を消した。父さん達は気になりながらもまずは話の真相を解明しなければと無視していた。
それから更に数日後、父さん達は真相に辿り着いた。そして夕方、その犯人が居るという神社に行ったんだ。
その神社の境内には、人間の心臓を貫いている数年間一緒に仕事をしてきた霊が居た。
犯人はその霊だった。その霊の正体は悪霊であり、目的は人を殺すこと。霊を祓っているという父さん達の信用を買い、自分を攻撃させないようにしていたんだ。夕方だけ手伝わなかったのは人間を殺し、己の欲を満たす時間を作っていたからだった。
その霊は父さん達を攻撃してきた。でも父さん達は2人。霊を追い詰めるのにそう時間はかからなかった。
あとはその霊にとどめをさすだけ。父さんは霊に近づき、殺そうとした。でもそこで優しさが災いしたんだ。
その霊は涙を流して命を乞いた。勿論上辺だけの嘘。だがその涙に父さんは一瞬躊躇してしまった。
次の瞬間、その霊の右手が父さんの胸を貫いた。心臓を一突き。即死だ。
その霊は母さんが祓ったが、父さんは戻ってこない。
母さんは一度でも霊を信用したことを悔やみ、父さんの復讐として全ての霊を祓うと誓った。そして子供の中で唯一霊が見れる俺に霊は悪だと刷り込み、厳しく育てた。
俺だってわかってたさ。本当に全て悪い霊ではないって。
でも、俺も父さんを殺した霊を許せなかった。いつも人を助け、自分よりも他人の為に生きているような優しい人だった。決して殺されるような人間なんかじゃない。
だから俺も霊を殺すって決めた。優しい霊が居ても信じず、全てを平等に滅すると。
※※
「…………」
心君が話してくれたことは僕の予想と大体一致している。あの時心君の雰囲気から感じた恨みと怒りに納得がいった。
「だから俺は霊を祓う。勿論、君も例外じゃない」
心君は美影を見ながらそう言った。先程と違い殺気は無く、霊力も出していない。でもその固い意志だけは何故か強く伝わってきた。
「私達トイレの花子さんは都市伝説の中でも1番と言って良いほど有名。そして有名ってことはそれだけ強いということ。多分君じゃ勝てないよ」
「……そうかもね。でも、俺はやらなければいけないんだ」
「なら、否定はしない。頑張って」
美影は心君に背を向け、僕の家がある方向へと歩き出した。
「今日は見逃してあげる。夕樹、いこ」
「そうだね」
美影についていく前に僕は言いたいことがあった為心君の前にしゃがむ。
「……どうしたんだい? 止めろと言われても聞かないよ」
「うん、知ってる。でも、これだけは一応知ってて欲しいなって思ってさ」
「……?」
少し照れくさいが、しょうがない。止められるとは思ってないけど言っておこう。
「僕も止める気は無いよ。でも、僕って美影の言う通り話せる人が少ないんだよね。だから無理はしないでね。もし心君が死んだりしたら悲しいからさ」
「……あはは、うん、わかったよ」
「夕樹〜! 早く〜!」
「今行く〜! それじゃ、また」
僕は立ち上がり、少し前で手招きしている美影に追いつく。
「あ、そうだ」
そしてまた美影は心君の方へ振り返った。先程心君と煽り合いをしてた時と同じくらいの殺気と霊力を出して。
「また私の命を狙おうとするのなら、その命を差し出す気で来ること。あと、夕樹に怪我をさせようとしても——」
「やめい」
「あうっ」
めちゃめちゃ圧をかけながらそう言う美影の頭に軽く手刀を落とす。後半の言葉は嬉しいけどそれは駄目。
「……いたい」
「駄目でしょ、脅しちゃ」
「……でも」
「ほら、早く行くよ。心君、またね」
そして僕達は雑談をしながら並んで歩き出した。
「なんか、調子狂うなぁ……」
後ろで心君が何かを言っているような気がしたが聞こえなかったので無視した。
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