トイレの花子さんが僕を離してくれない
kino8630
第1話 都市伝説の女の子
「君、こんな所で何をしていたの?」
「……え、え〜と……」
僕の事を見下している一人の小柄な少女。そして女子トイレの前で尻餅をつきながら少女に見下されている僕。なんでこんな状況になってるんだろう……?
※※
この県有数の進学校である
「なんか涙出て来た」
旧校舎の3階にある図書室で読書をしながら、僕は独り言を呟いた。この涙は多分この本を読んでたからかな。この本、感動するって有名だし。……まだ開いても無いけどね。
僕は時計を確認する。時刻は午後4時40分ほど。もう少し時間を潰してから家に帰ろうかな。あの家にはあまり居たくないし。
そして、僕は早速本をひら——
「ねえねえ、本当にアレ試すん?」
「もち! その為にここに来たんでしょ!」
こうとした所で階段を上がる音と共にそんな女子達の会話が聞こえた。僕は焦りで変な汗をかきながら反射的に机の下に隠れる。この旧校舎は人が来ないで有名なのに……!
幸い、図書室ではないどこかの扉が開いた音がしたので僕は周りを確認しながら机の下から出る。こっちに来なかったことに安堵し、胸に手を当てて息を吐いた。
……それにしても、女子達が話していたアレと言うのはこの旧校舎に伝わる噂の事だろうか?
放課後、午後4時44分に幽成高校の旧校舎の3階の女子トイレに行き、3番目の個室を3回ノックする。そして「花子さん、こんにちは」と言うと花子さんが返事をし、ノックした者を殺すと言う。
僕は先程確認した時刻を思い出す。そしてさっきの扉の開閉音、トイレの扉の音に似ていたような……まさか、あの女子達……!
「うん、今日は帰ろう。理由は無いけど帰ろう」
僕は荷物を持ち、静かに図書室を出る。いや、別に噂が怖いとか思ってないよ、うん。さあ、早く帰ろう! 面倒な事になる前に!
僕が早歩きで声がした方向とは別の階段へ向かおうとする。だが——
『いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
そんな耳をつんざくような悲鳴が聞こえた。僕は顔から血の気が引いていくのを感じながら声が聞こえた後ろの方へ振り向く。女子トイレから出て来た女子達は廊下にいた僕と一瞬目が合うが見向きもせず、すぐにバタバタと階段を降りて行った。
「まさか……」
僕は恐る恐るスマホで時計を確認する。さっき時計で確認した時刻は4時40分。そして、今は……
「4時……44分……」
僕のゴクっと唾を飲み込む音が妙に五月蝿く聞こえる。心臓の鼓動が早くなり、呼吸が少し浅くなる。僕も早く下に行かないと……!
だが、僕の考えとは裏腹に足は女子トイレへと歩き出した。
「な、なんで……?!」
まるで誰かに操られているかのように僕は女子トイレの方へ歩みを進める。なんとか抵抗しようと足に力を込めたりするが、足は止まる気配がない。そして気がつくと目の前には扉が開いている女子トイレ。そして中には僕に背を向けている一人の少女がいた。
髪はショート。白いワイシャツに赤い吊りスカートを履いている、小学生ほどの身長の女の子。多分、間違いない。彼女が花子さんだ。なら、僕は——
「……」
「ひっ」
「ん? 君……」
花子さんがこちらを振り向いたのに驚き、僕は尻餅をついてしまう。少女は少しの間こちらを見たまま動かなかったが、右足を前に出すと——
「ねえ」
「えッ?!」
次の瞬間にはトイレの奥の方に居たはずの少女が目の前にいた。
「君、こんな所で何をしていたの?」
「……え、え〜と……」
このままじゃ殺されると思った僕はなんとか助かる為に思考を巡らせる。……だが。
「まあいっか。君はあの女達と関わりは無さそうだし。気をつけて帰ってね」
花子さんは僕の予想とは違い、踵を返して女子トイレの中へ戻って行った。
「……え?」
殺されると思っていた僕は花子さんの予想外の行動に思わず間抜けな声が出てしまう。
「ん? なに?」
こちらを向いて疑問の声を漏らした花子さんに僕は無意識のうちに思っていた事を口走ってしまった。
「いや、えっと……僕の事を殺さないのかなって……」
「なに? 殺して欲しいの?」
「い、いえ! そうじゃなくて! 噂と違うな〜なんて……」
「噂……ああ、あれの事かな? 私に人を殺すなんて言う事に興味や関心はないの」
「……そう、ですか」
その僕に興味なさげな声を聞いて、僕の心に嬉しさと悲しさが生まれる。
「あ!」
「ひゃい?!」
花子さんは俺に向けて悪戯な笑みを浮かべる。その顔を例えるなら、餌を見つけた時の肉食動物のようだ。
「……どうされました?」
「私、君には興味ある」
「え?」
僕に、興味がある? こんななんの取り柄もない陰キャな僕に?
僕の頭が疑問符で埋め尽くされていると、花子さんは窓から外を見た。
「今日はもう帰った方が良さそうだね。また明日のこの時間にここ集合ね?」
「え〜と……」
「返事は?」
「はい」
「うん、よろしい」
花子さんは「ばいばい。気をつけてね」と笑顔で手を振ってきた。僕はそれに手を振り返した後、荷物を持ち階段を降りる。
「君がなんでそう思ったのか。そして嘘を吐くのか、気になるなぁ」
その言葉は僕の耳には届かず、夕陽に照らされている空気に溶けて消えていった。
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