第21話 ネタバラシ

「なんで心君は全ての幽霊を祓おうとしてるの? 美影みたいに優しい幽霊も居ると思うけど」


 取り敢えず僕が今1番気になっている疑問を聞くことにする。まあ美影やゆきさんが他の幽霊と違うだけかもしれないけど。


「幽霊に優しいなんていう概念は無いよ。君はかなりの異端であって普通は出会った瞬間に殺されてる」


「え、本当に?」


「う〜ん……確かに間違ってないかも」


「えっ」


 嘘でしょ? 一歩間違えれば僕死んでたってこと?


「幽霊、特に都市伝説で人に害を及ぼすと言われているのは大体が本当だよ。そして人間を傷つけるのなら俺は祓わなければならない」


 覚悟、そして少し寂しさが混ざった声で心君はそう言った。でも——


「本当にそれだけ?」


「……え?」


 心君は目を見開いて僕を見る。まるで図星を突かれたように。


「どうして、そう思ったんだい?」


「まあ確証は無いんだけどね。ただ、さっき美影と煽り合いをしてた時の殺気。僕でも感じれるあの殺気の量は義務感だけから出たものとは思えなかった。あと……」


「……まだあるのかい?」


「なんか、悲しそうだったな〜って思って。まあこれは推測でもなんでも無いんだけどね」


「…………はは」


 僕の推理? に心君は少し沈黙した後、諦めたように笑った。どうやら結構合ってたみたいで良かった。これで間違ってたら恥ずかし過ぎて今すぐ自室に引きこもって3日くらい出て来なかったと思う。


「夕樹君って意外と鋭いんだね」


「なんか話した人の8割くらいの人からそう言われてる気がするよ。意外っていう言葉はちょっとだけ傷つくけど」


「夕樹の話したことある人が少な過ぎて8割になっちゃってる」


「……美影、隠さないで全部正直に言ったら僕の傷が和らぐわけじゃ無いからね? 大ダメージだよ?」


「第一印象で夕樹が鋭い人なんだなって思った人は眼科をおすすめすると思う」


「本当に酷くない? 僕泣きそうなんだけど?」


 病院に連れていくほどなの? 眼科の人も困るでしょ。鋭いって言っただけなのに眼科紹介されましたって医者に言うの?


「夕樹、鏡って見たことある?」


「……あるけど」


「なら、夕樹もわかってるんでしょ?」


「そりゃ、わかってるけどさ……でももう少し優しくしてくれても良くないですか……?」


「よしよし」


 両手で顔を覆い隠した僕の頭を美影は優しく撫でてくれる。ああ、温かい……さっきの言葉は冷たかったけど。


「…………あの」


「あ、ごめん心君」


 そうだった。ここには僕と美影だけじゃなかった。心君の事を完全に忘れていた。


 僕は話を戻す為、俯いている心君の方に向き直る。


「まあ言いたく無いなら言わなくて良いけどさ。命令はしないよ。ていうかする気も無いし」


「……楓を人質にとってるのに、命令しないのかい?」


「まあこの際言っちゃうけど、あれ嘘だからね」


「え?」


「多分今楓ちゃんは家で憐さんと遊んでるんじゃない?」


「……は?」


 心君は俯いていた顔を上げ、僕を見る。まあ当然だよね。人質になってるはずの妹が急に家で姉と遊んでますとか言われたんだから。


「で、でも! さっきの写真は?! あの写真は実際に誘拐しなきゃ撮れないはず!」


「ああ、あれは合成。最近のスマホだとアプリとかさえ揃えれば意外と出来るよ」


 ちなみに元となった写真は前に楓ちゃんの家で一緒に撮った写真だ。あの写真に写っている僕を消して、写真の背景、楓ちゃんの体勢などを変えたら完成。


「よく見たら合成だってすぐにわかるよ? ただ心君が楓ちゃんだって気づいた瞬間に焦って良く見てなかっただけ。まあそれを狙ったんだけどさ」


「…………」


「氷森心、今だけは同情する」


 目を伏せながら美影は心君にそう言った。どうやら美影は気づいてたらしい。流石美影。僕のことをよくわかって——


「セコいよね」


「なんか今日言葉キツくない? 言葉の節々に棘がある気がするんだけど」


 さっきといい今といい、僕の事を泣かしに来ているのではないかと思うほどだ。もしかして最大の敵は美影だった?


「時間を稼いでと言われたから稼いだのにやっていたのは氷森楓という小さい女の子の監禁画像を造り出すこと」


「うぐっ」


「しかもそれを実の兄である氷森心に見せて絶望させ、武器を全部出させて服従させる」


「かはっ」


「挙句の果てに氷森心が攻撃してこないよう密かに私に霊力を溜めさせて警戒。完璧だよね。失望したよ、夕樹。早く逮捕された方が良いと思う」


「がはぁ!」


 美影に渾身のジト目を向けられた僕は胸を押さえてその場にしゃがむ。言葉だけ聞くと心君の妹も想う気持ちを利用して強制的に敗北を選択させたクズである。しかも最後の保険もバラされたし。


「い、いや、だってしょうがないじゃん。心君怖かったしさ。それにあのままじゃどちらかが死んでたかもじゃん?」


「私が守るって言った」


「それは確かにそうなんだけどさ……」


「……あはは」


「え?」


「あはははははは!!」


「ひえっ……ごめんなさいごめんなさい」


 突然笑い出した心君に速攻で土下座する。許されるのなら幾らでもそうしよう。僕にプライドなんてものはない。


「まさかここまで嵌められてたなんて。俺の完敗だよ。言うよ、全部」


「あ、そっち?」


 

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