第20話 絶望による決着

 美影から放たれた圧縮された霊力は心君が張ったらしいもう1枚の少しだけ見える壁(多分あれを結界と言うのだろう)に消された。見えるといっても空気が歪んでいるように見えるだけだけれど。


「意外と固い」


「あまり俺を舐めないでほしいな。まあ俺が言えることじゃないかもだけど」


 詠唱を終えたらしい心君の上には大きな剣の形になった霊力の塊があった。心君は手を上げ、振り下ろす。


「夕樹、私の近くに来て!」


「う、うん!」


 僕が美影のすぐ後ろに隠れると、美影も心君と同じように結界を張った。


 上から降ってきた剣は美影の張った結界とぶつかり、火花を散らした後に消えた。霊力は空気よりも若干白いので辺りは霧に包まれたように霊力によって見えなくなる。


「ふっ!」


 美影はまた手から波動のように霊力を出し、辺りの霊力を消し飛ばす。だが、それが隙となった。


「貰うよ」


「ッ!」


 霊力に紛れて美影に近づいていた心君は霊力で作った片手剣を美影に向けて薙ぐ。美影はなんとか右手でその斬撃を受けると、反撃として左手で心君にパンチを繰り出す。


「いたた」


「美影!」


「大丈夫だよ。すぐ治る」


 斬撃を受けた美影の右腕からは血が出ている。深くは無さそうなのが幸いだ。


 美影の言う通り数秒すると傷が回復した。霊力はやっぱり便利なんだろうな。


「へえ、血が出るなんて幽霊の分際で生意気だね」


「血は人間の特権じゃないよ」


 美影はチラッと僕を見る。僕は口パクで「あと少しだけ」と言うと、美影は頷いてくれた。


「この剣、結構切れ味が鋭いはずなんだけどな。固いね、君」


「私に傷を付けた所は褒めてあげる。けど、耐久性はあまり無いみたいだね」


「は?」


 美影は右手から霊力の波動を出す。それを心君は剣で受けたが——


「なっ?!」


 先程の美影のパンチが効いていたのか、剣が折れ、心君の体が吹っ飛ばされる。


「中々の馬鹿力だね。ゴリラかい?」


「女の子にそんな事言うとモテないよ?」


「あはは! そんな事どうでも良いよ! 君達を全員殺せればね!」


 新しく霊力で剣を作った心君は普通の人間には到底出せないような速さで美影との距離を詰める。


 けれど、美影は棒立ちをするだけで防御をしなかった。なぜなら——


「ストップ、心君」


「……死にたいのかい、夕樹君?」


 僕が美影を庇うようにして立ったからだ。心君は僕の顔スレスレで剣を止めてくれたので取り敢えず一安心だ。そして、この時点で僕の勝ちと言っても過言では無い。


「今すぐにそいつを差し出せば見逃しても——」


「心君。これ見て」


「ん?」


「美影」


「……成程、了解」


 僕が心君の右耳に視線を送りながらそういうと、美影が親指から人差し指を弾いた瞬間、イヤホンが飛んだ。僕の意図を汲んでくれた美影には感謝しかない。これで多分憐さん達の連絡は取れなくなったかな?


「なっ! これが目的か!」


「違う違う。これが本当の目的。はい、写真見て」


 僕は画面にある写真を映し出し、心くんに見せる。心君は訝しむようにしながらもその写真を見る。そして、すぐに顔が青くなった。


「か、楓……?!」


「え?」


 楓という言葉にびっくりしたのか、美影もスマホの画面を見てくる。そして口をポカンと開けて固まった。まあ、驚くよね。


 僕のスマホに映し出されている写真は楓ちゃんの写真だ。だが、普通の写真では無い。項垂れたまま両手は椅子の後ろに縛り付けられ、口はガムテープで塞がれている写真。つまり監禁されている写真だった。


「か、楓に何をしたんだ!」


「僕は何もしていないよ?」


「そんな訳無いだろう! いつ楓を誘拐した!」


「だから僕は何もしてないって。ただ僕は、だけどね」


「ッ!」


 そこで僕の言いたいことが理解出来たらしい心君は、握っていた剣を落とした。地面に落ちた霊力で出来た剣は霧散して空に消えた。


「まさか、もう1人……」


 僕は絶望している心君にニヤリとした笑みを見せてやる。


「ちなみに今は楓ちゃんの隣で見守ってくれてるよ?」


「この……クズが……!」


「じゃあ、武器を全部捨ててここにしゃがんで。少しでも僕達に攻撃するようなら楓ちゃんからはもう言葉が聞けなくなっちゃうかな。死人に口無し、でしょ?」


「くっ……」


 心君は苦虫を噛み潰したような表情をしながらもポケットなどからお札を取り出していく。


 そして数十秒後、僕達の前にお札などを出した心君は地面に座っていた。


「これで全部?」


「……そうだよ」


「本当に? もしまだあったら楓ちゃんは——」


「本当に無い! だから楓には何もしないでくれ!」


「なら良いけど」


 心君が優しい兄で良かった。準備した甲斐があったね。まあ、嘘をつくのは心苦しいけど。


 ちなみに美影はまだポカンとしている。いつになったら戻ってくるんだろ。


「さて、じゃあ色々と聞いていこうかな」


「夕樹君、楓は……」


「心君が大人しくしてれば返してあげる。だから今は集中して、言葉を選んで発言してね?」


「……わかった」


 こんなお兄ちゃんがいて楓ちゃんは幸せ者だなぁ。今頃楓ちゃんは家で何をしているんだろ。憐さんと料理でもしてるのかな?

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