第11話 美影の友達?
「ゆき、なんでここにいるの?」
「あ、美影だ。よっ!」
図書室の扉付近にいる美影へゆきさんは軽く手を上げて挨拶をする。
ゆきさんのように誰かが美影に化けている可能性もあるかもしれないけれど今回は大丈夫だと思う。同じ花子さんであるゆきさんが美影を間違えるわけないし見覚えのある髪飾りを付けているし。
「……夕樹に何をしたの?」
美影は大量の霊力と怒気を出しながらゆきさんを睨む。美影、もしかして結構怒ってる?
美影に睨まれたゆきさんは両手を上げ、降参のポーズをとる。
「どうどう。落ち着いて落ち着いて。そんなにかりかりしていると可愛い顔が台無しだよ?」
「……余程死にたいみたいだね、ゆき?」
「幽霊だから元々死んでるけどね」
「殺す」
「待って待って!」
ゆきさんに向かって右手を出した美影を慌てて止める。美影がゆきさんを攻撃して戦闘に……みたいなのは避けたい。
「夕樹、止めないで。私はあいつを殺すの。私の夕樹に手を出した罪は重い」
「夕樹君は美影の物なの?」
それは僕も思った。いつから僕は美影の物になったのだろう……
「美影に化けて夕樹君と接触したのは謝るからさ。落ち着いて? ね?」
ゆきさんの謝罪が功を奏したのか、美影は右手を下ろしてゆきさんに疑いの目を向ける。
「……ちゃんと理由があるんだよね?」
「勿論。山よりも高く、海よりも深い理由があるのです」
真面目な雰囲気を出したゆきさんに僕は安堵する。この感じなら本当にちゃんとした理由があるのだろう。ならもうさっきの様にはならな——
「私の話を聞いて会いたかった〜とかなら本当に殺すからね?」
「……ソンナワケナイジャン」
「今すぐ死ね」
「待って待って!」
その後、僕とゆきさんでなんとか美影を宥め、色々話す為に窓際の席に座る。ゆきさんは僕の対面の席。美影はゆきさんに駄々をこねられた結果ゆきさんの隣の席だ。
また紅茶を淹れ直して戻ってきたゆきさんはカップをそれぞれの前へ置いた後、美影の隣の席に座る。
「改めて自己紹介をしようか。私はゆき。トイレの花子さんにして美影の唯一の友達なのだ! まあ唯一では無いけど」
「……それでゆきさん。なんで美影に扮して僕と接触したんですか?」
「反応が冷たいっ! よよよ」
僕の華麗なスルーにゆきさんは大袈裟に反応した後、ベタな泣き真似をする。だがすぐに美影から「早く言って」と手刀を頭に落とされたゆきさんは頭をさすりながら渋々といった様子で説明をしてくる。
「さっき美影が言ったように夕樹君が気になったからだけど? 美影に化けたのは単純にその方が面白そうだから」
からからと笑うゆきさんを見て美影はため息をつきながら額に手を当てる。
「トイレの花子さんと呼ばれる私達が人間と親しくするなんて珍しいからね。それだけでもかなり気になるのに美影は私の友達! ならその人間と話してみたいに決まってるじゃん!」
まあ、ゆきさんの主張には共感できる。僕がゆきさんでもそうする。まあ美影に化けはしないかもだけれど。
「じゃあゆき。夕樹と話してみてどうだった?」
ゆきさんは顎に手を当て、少し考える。
「う〜ん……まず思ったのは見かけに反して意外と鋭い、かな。あの推理は結構美影をよく見てないと無理なやつだからね」
「ふ〜ん、そうなんだ。その推理、聞きたかった」
ゆきさんの感想を聞いた美影は嬉しそうな声を出す。心なしか体もそわそわとしている。
「僕、やっぱり鈍臭そうに見えますかね?」
「うん、見える」
「うぐっ……まあ、そうですよね」
「ゆき、もう少しオブラートに包んで」
正直そう言う返答が来ることは薄々わかってはいた。多分他の人に聞いても百人中百人が同じ答えをするだろう。
「美影は面白い子を捕まえるよね〜。前の子とかも他の人間と違ってたし」
「前の子……幽霊が好きだったという女の子ですか?」
僕の予想にゆきさんは首を縦に振る。
「そうそう、その子。あの子は恐怖心が無いんじゃないかと思うほど美影に話しかけてたからね」
「そ、そんなに?」
幽霊、それも人間を殺すと噂されているトイレの花子さんに自分から話しかけるなんて僕じゃ考えられない。
「うん、そんなに。私が会った時もすっごいグイグイ来たんだから。最早私が怖かったよ」
ゆきさんは天井を見ながら腕を組み、「懐かしいな〜」と呟く。なんか逆に会いたくなってきたかも。
「あ、そうだ。特別に前美影が何も無い廊下で転びそうになった話を——」
「絶対にさせない」
そのままわちゃわちゃしながらももう少し話した僕達はもうそろそろ解散しようとなり、僕は旧校舎を出た。だが前に美影から聞いた情報を思い出し、辺りを見る。
「ここら辺、ひきこさんや八尺様が出るんだよね……? いや、美影が止めているらしいから僕は大丈夫だと信じたいけど……うん?」
僕は後ろを振り返る。今、視線を感じたようなきがするけど……
「それに今の視線、前に教室で感じたのと同じなような……
そこまで考えた僕の心は恐怖で支配され、頭を横に振って急いで家への道を歩くのだった。
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