第10話 美影?
日曜日をダラダラと過ごした翌日の月曜日。僕は旧校舎の階段を駆け上がり、図書室へ走る。
「ごめん美影。掃除が長引い——あれ?」
僕は図書室の扉を開けて中を見ると、中に美影の姿は無かった。
最近は大体図書室にいたはず。トイレに戻ったのかな? 理由は土曜日に少し気まずい空気になったからだろうか。
僕は図書室を出て歩き出し、女子トイレの扉から少し離れた位置で止まる。前の僕なら行くか行かないかで悩んでいたが今は心配無いだろう。前に僕に少し霊力が移っているからわかるみたいな事を言っていたような気がするし。
そして僕の予想は当たったようで、周りの気温が少し下がったように思う。だが、僕はその空気に少し違和感を感じた。
違和感を感じた数秒後、目の前のトイレの扉が開かれ、昨日とは違いいつも通りの髪型に戻った美影がいた。
「ごめん。ちょっとだけ用事があって」
「そうなんだ。用事ってもう大丈夫なの?」
「うん、大丈夫。貴方を待たせない為に素早く終わらせたから。だから早く図書室行こう」
いつかのように僕の手を取り、図書室の方へ走り出す美影。その手はいつも通り冷たく、姿や雰囲気も前となんら変わりはない。でも、何か……
美影に手を引かれて歩いていると、図書室に着いた。僕はもういつも通りと言っても過言では無い窓際の方の椅子に座る。
「お茶用意するね」
「僕も手伝おうか?」
「貴方はゆっくりしてて」
「でも……」
「良いから」
「……そっか。ならご厚意に甘えさせてもらうよ」
受付の方へ歩いて行った美影にお礼を言いながら僕は美影を、特に後ろで組まれている右手を見つめる。
明日は手伝おう、なんて考えながら席を立ち、窓から下を見る。校庭では運動部がランニングをしたり練習メニューをこなしたりしていた。
僕にはキツそうだと思いながら校庭を眺めていると、カチャカチャと言う音が僕に近づいてきた。
「お茶淹れたよ。どうぞ」
「あれ、前より凄く早くなってる。練習したの?」
「……まあ、そんな感じ」
どれくらい練習したのだろうと思いながら1口飲む。この紅茶の味、そして香り、前のやつとは違う。やっぱり、美影は……
僕は少しだけ試してみようと言葉を考える。少し心が痛むけど仕方がない。
「……美味しい。凄いね、前はあまり美味しくなかったのに」
「あ、そうだったの? なら言ってくれれば良かったのに」
僕の煽りにあっけらかんとしながら言葉を返す美影。美影なら突っかかってくると思ったのに、今回はこんなに軽く流された。
僕は更に証拠を集める為、美影に話しかける。
「あ、そう言えばその赤い石の指輪どうしたの?」
「これ? これは……さっきの用事でちょっとね」
「へえ……ならいつもの桜の髪飾りは? 今日付けてないよね?」
僕は自分の前頭部を人差し指でトントンと叩くと、美影は目を見開いた。
「あれは……え〜と……今は外してるんだ! いつもつけてるからたまには外そうかなって——」
「いつもの美影は髪飾りを付けないよ、偽物さん」
僕の言葉に、美影ではない誰かが目を見開いた。そしてすぐに諦めたように笑う。
「成程、釣られたか〜。もしかして少し前から怪しんでた?」
「まあね。最初に君がトイレから出てきた時、美影とは何か違う雰囲気を感じたんだ。霊力なのかはわからないけどね。あと美影は僕の事を貴方呼びはしないよ。大体君か名前で呼ぶ。まあ確信したのは最後のカマかけかな」
他にも紅茶の味がお気に入りと言っていた前のとは違ったし、僕の煽りもスルーした。これだけ違和感があれば誰でも気づく。
「う〜ん。もう少し美影に話を聞いておくべきだったかな〜」
「で、君は誰なの?」
「そうだね。自己紹介をしなきゃ」
次の瞬間、美影の周りに霊力が集まり、覆っていく。そしてその白い光が霧散していくと、僕の視界には美影とは全く違う姿があった。
服装は美影と同じ白いワイシャツに赤い吊りスカート。だが髪はおかっぱではなく右の髪を耳にかけたボブだった。それに髪色も黒ではなく茶色だ。……だれ?
「もしかして……花子さんじゃ無い?」
「ん? 花子さんだよ? 私さ、あの髪あまり好きじゃないんだよね。なんか昔の花子さんの像に囚われてるっていうかさ。だからこうやってプライベートの時はラフな髪にしてるんだ〜」
これを許して良いのか花子さん業界。まあ美影もロングにした上にハーフアップだった時もあったけどさ。
「あ、名前はゆき。平仮名ね。よろしく〜」
「あ、はい。え〜と、よろしくお願いします?」
手を差し出してきたゆきさんと握手を交わす。僕は花子さんの仕組みがわからなくなってきたよ。
「花子さんについて疑問が多そうだね」
「まあ、ありますね。それとゆきさんにも聞きたいことがあります」
「なんで美影に化けてたのか。あと美影はどこなのか、かな? 前者は後で説明するとして、後者はもうすぐわかるよ」
「え?」
僕が疑問の声を発した直後、バンという凄い音と共に図書室の扉が開かれた。僕は音がした方へ視線を飛ばす。
「ゆき、なんでここにいるの?」
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