第9話 叶わない願い
「う、んん……」
重い瞼をゆっくり開けると、見慣れた白い天井が視界に入った。そうだ、僕は少し疲れて寝たんだった。
横になりながら手で辺りを捜索する。スマホのような感触を発見し掴み、時間の確認。
「14時……4時間くらい寝てたんだ……」
1時間くらいの睡眠にするはずか結構寝てしまった。
「あ、美影」
美影が来ていた事を思い出し右を見ると、そこに美影の姿は無かった。
もう帰ったのかなと思いながら伸びをする。少しストレッチをすると体からバキバキという音がした。
顔を洗おうとゆっくりベッドから降り、1階の洗面所に行く為階段へ足を運ぶ。
洗面所の前に着き、扉を開けると先客が居た。その先客を一目見て一瞬首を傾げそうになるが、見慣れた白いワイシャツに赤い吊りスカートという服装を見て思い当たる名前を呟く。
「み、かげなの?」
「あ、起きたんだ。おはよう、美影だよ。少し洗面所をお借りしています」
僕が首を傾げそうになった理由。それは美影の髪型がいつもと違かったからだ。
いつもは噂の花子さんらしくおかっぱだった。だけど今は腰まで伸びた黒髪を使って三つ編みハーフアップにしている。そして前髪には可愛らしい名前がわからない花の髪飾りがついていた。
「その花は……なんだっけ。髪飾りは自分で買ったの?」
「この花はゼラニウムね。前に話した人間の女の子に貰った」
「もう1つ。なんで髪が伸びてるの? それも霊力?」
「うん、そうだよ。霊力は便利じゃないけど便利なの。これくらいの軽い事なら出来るよ」
いつもと雰囲気が違って清楚な感じの美影。新鮮で可愛い。
「それで、夕樹は何をしに来たの?」
「顔を洗いに来たんだ。ちょっと洗面台貸してもらうね」
美影に少し避けてもらい、顔を洗う。少しうがいをしようとコップに水を入れ、口に水を含む。
「そう言えば夕樹のお母さんを見たんだけどさ」
「ぶふぉ!!」
急なカミングアウトをされて僕は口に含んだ水を吹いてしまう。
「けほっけほっ!」
「大丈夫?」
美影が僕の背中をさすってくれる。背中に伝わる冷たい感触に僕は少し悲しくなった。
「……大丈夫。ごめんね、ありがとう」
「どういたしまして。それで、南さん、だったっけ。あの人とすれ違ったんだけど、良い人そうだったよ。なんで夕樹はあの人に少しよそよそしいの?」
少し心臓の鼓動が速くなる。なんとか平静を保ちながら脳をフル稼働させ、言葉を探す。
「……」
返答が思いつかない僕を美影はじっと見つめてくる。
だが、少しの沈黙の後、美影は「ごめん、部外者が踏み込みすぎたね」と言って洗面所を出ていってしまった。
その場から動けない僕は俯き、洗面所に誰もいないのを良い事に独りごちる。
「美影は悪くないよ。でも、僕はまだ他人を完全に信じられないんだ。南さんも、文雄さんも、心君も」
ごめん、お母さん。遺言を守りたいけど、僕は幸せになれるかわかりません。
※※
僕が部屋の扉を開けると、中には誰も居なかった。多分美影は旧校舎に帰ったのだろう。
僕はベッドに倒れ込み、息を吐く。
「美影に悪い事しちゃったかなぁ……」
でも多分僕は何度ああ言う場面に遭遇しても同じ反応、そして対応をするだろう。少なくとも、今の状態ではそうなる。
やっぱり、僕は人を信じられないのかな?
『なんであいつを引き取ったんだ!』
『仕方ないでしょ?! あの場所で1番あいつと血が近いのは私達なんだから! 私だって本当は今すぐに捨てたい気持ちを我慢してるんだからね?!』
ごめんなさい。ごめんなさい。大人しくします。大人しくするから。視界に映らないように努力するから。
『ねえ、あの子なんか気味が悪いわ』
『あと少しの辛抱だ。それまでは耐えよう』
次々と聞こえてくるあの人達の声が僕の心を削ってくる。
やっぱり僕は要らない子なんだな、と改めて理解する。南さん達にもそう言われたら。そして、もし、もしもだけど。美影にもそう言われたら、僕の心はどうなるんだろう。
「……寝よう」
僕はまたベッドに入り、目を瞑る。次は幸せな夢を願って、僕の意識は落ちていった。
※※
「姉さん、聞こえてる?」
『待たせたな! こちら姉。聞こえるか? どうぞ』
俺は右の耳から姉の声が聞こえるのを確認し、歩き出す。
『最近ここら辺に有名な都市伝説、八尺様やひきこさんが出ているらしい。注意して捜索を続けてくれ。どうぞ』
ス0ークごっこをしている姉を放っておいて捜索を続ける。
最近この幽成高校で霊力が出ている、もしくは見つかる頻度がかなり多くなっている。それもかなり強い霊だと予想できる。
こいつらほどの霊となると退治しなければ人間に害を及ぼすかもしれない。早急に見つけなければ。
そして、ある1人の男子生徒もかなり怪しい。あいつは何者なんだ?
俺は護身用の札を持って幽成高校の近くを散策するのだった。
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