第8話 休日に凸る都市伝説さん
「やっと休みだ〜」
午前11時。僕はいつもより遅く起きて伸びをする。そしてベッドを降りてカーテンを開け、日の光を浴びた。
「ああ、いい天気だ」
一見すれば誰しもが望む最高の朝。これに美味い朝食があれば更に良くなるだろう。ある一点を除けば、だが。
「おはよう」
「……なんで居るの?」
床の上に美影がさも当然の様に座っていた。住所は教えてないはずなんだけど……
「なんで居るのって……え〜と、嫌だった?」
美影は気まずそうに目を逸らし、僕にそう問いかけてきた。
「……嫌、では無いけど。どうやってここに来れたの?」
友達……と言って良いかはわからないがとにかく知り合いが部屋に来るというシチュエーションは初めてなので少し嬉しい。
「あれ、言ってなかったっけ?」
美影がキョトンとする。……何か、嫌な予感がするんだけど……
聞きたいような、聞きたくないような、そんな相反する気持ちが胸の中を支配する中、美影は淡々と言う。
「夕樹は私と一緒に居るようになってからどれくらい経つ?」
「え〜と……多分5日とか?」
「うん、それくらいで合ってると思う。それで、私みたいな霊力を多く持った霊と1週間くらい一緒に居ると霊力が移ったりするんだよね」
何それ初耳なんだけど。じゃあ今なら僕少し物を浮かせられたり出来るってこと?
「あまり名が知られていない都市伝説とかだと数ヶ月とかかかったりするけどね」
「そうなんだ。ねえ美影、私みたいなって言ってたけど他にも居るの?」
「うん、居るよ。他の花子さんでしょ。後は……有名な都市伝説とかならあるね。ひーちゃんとかはっちゃんとか」
「ひーちゃん? はっちゃん?」
多分頭文字から取っているのだろう。そして有名って言うことはまさか……
「ん? ああ、わからないよね、ごめん。夕樹でも知ってる呼び名で言うとひーちゃんはひきこさんで、はっちゃんは八尺様ね」
……え、都市伝説って本当に存在したの? 本気で知りたく無かったんだけど。……いや、まだ名前を出しただけと言う可能性がある! 愛称な時点でアウトかもだけれど。
「ねえ、一応聞くけどさ……その2人って存在する?」
「うん、するよ。たまにあの学校の近くに来てくれた時は話したりする」
もっと聞きたく無い情報が来たー! 僕転校したい! 一刻も早くこの町から離れたい!
僕の顔から血の気が引いているのがわかる。全身から嫌な汗が出て、恐怖で体が動かない。
「大丈夫? 顔色が悪いよ?」
「……その2人は、人を襲ったりする……?」
「う〜ん、どうだろ? 私の霊力を守る為にあの学校の生徒達は襲わないでねって言っているから大丈夫だと思うけど」
……なら、安心なのか? 美影はあの学校の生徒達を利用しているっぽいけど……まあ、利害の一致という事で良いのかな?
「夕樹は大丈夫! もし夕樹を傷つけたら怒るって言ってるから! 他の子達は知らないけど」
「なら良いか〜とはならないんだけどね?」
本当に会ってしまったらどうしよう。今のうちに対策とか覚えておいた方が良いのかな? しかも他の人達は襲われるかもなんでしょ?
「まあそんなことよりもさ」
「そんなこと?!」
真顔で他の人が死ぬかもしれない事を言ってからそんな事と綺麗に流す美影に僕は戦慄する。怖い、美影が怖いよ。
「だって夕樹以外の人間なんてどうでも良いし」
「ひえっ」
美影は心底どうでも良さそうな顔をしながら僕が集めたラノベが並べられている本棚へ歩き出す。そんな美影を見て僕は背筋が凍った。もしも美影と関わっていなかったらと思うとゾッとする。
「これ、らいとのべるってやつ? 読んでみても良い?」
「良いよ」
「ありがと〜」と言って本を1冊取り、その場に座って読み始める美影。
「座布団取ってくる」
「別に私はこのままでも良いよ?」
「いや、美影はお客さんだし。少し下に行ってくるね」
僕は部屋の扉を開けて階段を降りる。1階に着き和室へ向かうと、南さんが居た。
「夕樹、どうしたの?」
「いや、ちょっと座布団が1枚欲しいだけ」
僕は気まずさからか素早く押入れから座布団を取り出し、さっさと和室を後にしようとする。
「ねえ、夕樹」
「ッ!」
僕は呼びめられた事に驚いて体が跳ねた。だがすぐに動揺を押し殺して返事をする。
「……どうしたの、南さん?」
僕の返事を聞いているはずの南さんは俯いたまま話さない。そして少し経った後、南さんは笑顔を見せた。
「ごめんなさい、何でもないわ」
「……そっか。じゃあまたね」
僕は足早に和室から離れ、階段をあがり2階へ行く。
「……ごめん、南さん」
自分の部屋の前に着き、深呼吸をして笑顔を作る。
「ごめん美影、少し遅くなっちゃった。これに座って」
「ううん、私はだいじょう——」
そこまで言いかけて、美影は突然顔が険しくなった。僕はそんな美影に首を傾げる。
「夕樹、何かあった?」
「ッ! いや、何も無いよ」
「本当に?」
「うん、本当。でもちょっと体調が悪いから寝させてもらうね」
「なら私、帰るよ」
「ここに居て良いよ。ただ少し寝るだけ」
そして僕はベッドに入り、目を瞑る。
「……おやすみ、夕樹」
意識が落ちる前に聞こえた美影の声には、優しさと少しの不安が混ざっている気がした。
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