第5話 クラスメイトとの初? の会話
今日最後の授業が終わり、教室が騒がしくなる。昨日の番組の事、流行のゲームなどを話すクラスメイト達を横目に僕は鞄に荷物を詰めていく。
鞄を持ち、教室を出て最近の日課になりつつある旧校舎へ足を向ける。
「お〜い、君。ちょっと待ってくれない?」
僕は帰宅部なので放課後の部活も、他に予定も無い。だから別に美影と話に行くのは良いのだが、近頃問題が出て来た。
「無視は流石の俺でも泣くよ? ねえ、返事くらいしてくれても良いじゃん」
話題が無くなってきたのだ。僕が出せる話題は大体出したし……どうしたものか。
「君だよ、君。夢乃夕樹君?」
「え、あ、はい?! なんでしょう?!」
突然右肩を掴まれて体が跳ねる。誰かを呼んでいたのは聞こえていたけどまさか僕の事を呼んでいたとは……
「ずっと無視するのは酷いと思うなぁ、俺は」
僕は肩を掴んできた人の顔を見るために振り向く。
僕の目に飛び込んできたのはこの学校で有名な男子の顔だった。髪は黒色でオールバック。顔は今すぐ芸能界に行けるのでは無いかと思えるほど整っている。服越しにも体格の良さが出ており、かなり鍛えていることが伺えた。
確か前にクラスメイトの女子達がイケメンだとか言って騒いでいた人がこの人だった気がする。だが、名前が思い出せない。なんだっけ……
「その感じ、俺の事知らない?」
「あ、えっと……」
コミュ障が発動してしまい、僕はその男子から視線を外してしまう。久しぶり、と言うかもしかしたら初めてかもしれないクラスメイトとの会話に緊張で体が強張る。
「そんなに身構えなくても何もしないって。俺の名前は
「あ……」
あははと笑いながら手を差し出してくる氷森君。僕は勇気を出してその手を握り、握手を交わす。
「よ、よろしくお願いします……」
手汗、大丈夫かな。不快に思われて無いかな。
そんな不安が心の中を支配する。今すぐに逃げ出したい気分だ。
「うん、よろしく。良かったよ、夕樹君が良い人そうで」
「あ……いえ、そんなことは……」
「お〜いこころ〜! カラオケ行くからはよこ〜い!」
そちらをみてみると、結構良い体格をした人がこちらを見ていた。
「今行く〜! ごめん夕樹君、またね」
「あ、はい、また」
氷森君は僕に申し訳なさそうに謝った後、踵を返して歩き出す。だが、すぐに振り返って困ったような笑顔を浮かべた。
「そう言えば、俺の事は心で良いよ。苗字で呼ばれるのはあまり好きじゃ無いからさ」
そして、氷森く——心君は先程大きな声で心君を呼んでいた人と階段を降りて行った。
そんな心君とは対照的に、僕はその場から動けずにいた。
「なんだったんだ……?」
全然関わりのない僕を呼び止めたかと思えば自己紹介をして誰かに呼ばれて去っていった。まるで嵐のようだったな……
「まあいっか。それよりも旧校舎に——」
そこで、僕は急いでポケットからスマホを取り出し、時計を見た。16時20分。もう美影は図書室で待っているだろう時間。
「やばいやばい」
僕は焦りながらも旧校舎へ向かい、図書室へ向かう。そして、息を切らしながら扉を開ける。
美影は図書室の窓から外を見ていた。が、僕が来たのに気づき振り返ると……
「遅い」
開口一番そんな言葉が飛んできた。
「ご、ごめん。遅れた」
僕は膝に手をつきながら謝る。これは遅れてしまった僕が悪い。
怒られるかな、と思ったが、僕の予想とは違って前から笑い声が聞こえた。不思議に思って顔を上げる。
「謝らなくて良いよ。元々約束はしてなかったし。それよりもちゃんと来てくれたことが嬉しいよ」
美影の言葉に安堵する。僕は怒られるのが嫌いなので本当に良かった。
「それよりも何をしてたの?」
「いや、ただクラスメイトと少し話してたら遅くなっただけ」
「ふ〜ん……」
僕の返答を聞いた美影はジト目を向けてきた。なんで……?
「ど、どうして不機嫌になったの?」
「そのクラスメイトは、女の子?」
「え、いや、男だけど……」
「ふ〜ん」
不機嫌になったと思ったら次はご機嫌になった。どう言うこと?
「美影は何をしてたの?」
「私? 私はあれ見てた」
「あれ?」
「こっち来て」
美影が僕を手招きした為、美影の隣に行く。そしてさっき美影が指を差したところを見ると……
「サッカー?」
「うん」
「でも、なんでサッカー?」
美影はサッカーをした事があるのだろうか? 花子さんは昔からトイレに居ると思うからしたことないと思ったのだけど……
そう考えた僕だったが、美影からの返答は思ったよりも簡素だった。
「なんか気になったから?」
「え、それだけ?」
「うん」
トイレの花子さんってサッカーに興味あるんだ……他の花子さん達もそうなのかな?
「なんか気になった。本当にそれだけだよ」
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