第32話 優しいし性格が悪い?
家に帰った僕は早々にお風呂を済ませ、部屋に戻る。
今日は神社に行くだけのつもりだったが予想外の収穫があった。神社では僕のストーカー……は自意識過剰か。まあ誰かが居たくらいで特に収穫は無かったし心君の家に行って正解だったと言えるだろう。
「将棋でも練習しようかな」
そう呟いて近くにある収納ボックスから将棋を取り出す(ちなみにこれはこの家にあったのを南さんの許可を取って拝借した)。盤面を整えていると、扉のノック音が聞こえてきた。南さんかな?
入って良い旨を扉の前の人に伝えると、扉が開かれ——
「お邪魔します、夕樹」
「うわっ!」
なかった。美影が扉をすり抜けて部屋に入ってきた。今回は本当に心臓止まるかと思った……
「思ったよりも驚いてる」
「美影が幽霊みたいな部屋の入り方するからじゃん!」
「幽霊だからね。たまにはそう言う所も見せないと」
誰に見せるのか、という疑問が脳をよぎったが気にしないようにして座布団を美影に差し出す。
「あ、座布団大丈夫」
「え、でもお客さんをカーペットの上に座らせるのは……」
「ここに座るから」
そう言った美影は胡座をかいていた僕の足の上に座ってきた。……え?
「あの……なんで?」
「……理由はあるけど後で話す。ついでに将棋しよう、夕樹」
「……将棋はするけどさ……」
顔を赤くした美影の言葉に僕は何かがあると察した。
正直この体勢で将棋をするのはやりずらい。だがまあ出来ない事は無い。
「というかそんなことよりも今日は言いたい事があって来たんだ」
「……この状態になっている理由は後で聞くとして、その言いたいことって?」
なんとか平静を装いながら美影の答えを待つ。
美影のハーフアップにされた髪の良い匂いが僕の鼻腔をくすぐる。……なんでこんなに良い匂いがするんだよ……! 幽霊って人間みたいにお風呂に入るのか……?!
美影が僕の胸に背中を預けてきているの更に心臓の鼓動が速くなっていく。正直今すぐに離れて貰いたい。いや、断じて嫌という訳では無いんだけどね? でも、ほら……このままだとさ……?
僕の心情を他所に、美影は体を少し左に傾け、話し始めた。多分僕が将棋盤が見にくいと思ったのだろう。そこまでしてこれを続ける意味はあるのかな……?
「氷森心が探している霊についての話。氷森心には申し訳無いけどこれ以上捜索しても見つかる可能性は低いと思う」
パチン、と将棋の駒を動かしながら美影はそう言った。
「かなり前にあった殺人だから手がかりが出ない、みたいな感じ?」
僕も駒を動かしながら推測を口にする。
「正解。氷森心の言っていた証言が本当ならその霊は生きているのかもしれない。でも私や氷森心、夕樹がどれだけ探しても過去の情報しか出なかった。今も同じ姿なのかはわからないし全ての情報が本当とは限らない。霊力で見つけようにも霊力で探知なんて出来ないしその霊の霊力を私は知らないから無理。この状況で見つけるのは厳しいと思う」
美影がまた駒を動かす。
「まあ、確かに……」
僕も駒を動かして行く。
当然だが僕も一応探してはいる。のだが今まで一度も鉢合わせたりした事は無い。美影は饅頭で釣られてたし僕よりも広範囲の捜索をしているのだろう。それでも見つけられないのなら……
「諦めるしか無い、のかな」
美影は少し考えた後、駒を動かした。
「饅頭の借りがあるしもう少し探してはみる。まあ正直に言うと私は氷森心の復讐なんてどうでも良い。私と氷森心はどこまでいっても敵同士。夕樹やゆき達の友人とかなら私から手を出すつもりは無い。けど、相手がいつか殺しに来るというなら私もそれ相応の対応をするだけ」
「……今まで美影から手を出して無いのは僕が心君の事を友達だと思ってるから?」
「うん、そういう事。だって氷森心を殺したら夕樹悲しむでしょ? 氷森心はどうでも良いけど夕樹は駄目」
その言葉は嬉しいけど……まあ心君とはちょっと関わりがあるだけ。美影が優しくする謂れは無い、か。
「冷たい、って思ったでしょ?」
「……いや、そんなことは——」
「隠さなくても良いよ。夕樹が私と違って優しいのは知ってる。でも私は関わりの無い人間の復讐に熱心に協力するほど優しい霊じゃない」
パチン、パチン、と駒を動かす音が部屋に響く。
前に心君が僕はかなりの異端であって普通は出会った瞬間に殺されている、みたいな事を言っていた事を思い出す。……でも……
「綺麗事だってのはわかってるけど……出来るだけ人は助けたい、かなぁ……」
「うん、夕樹らしくて良いんじゃない? あ、あと……王手」
パチン、と美影が歩を動かす。僕は盤面を見ながら長考してみるが、この状況を打開できる術は無いと悟る。
「参りました。……流石にまだ美影には勝てないか。いつかゆきさんに勝てるようになりたいんだけどな〜」
最近将棋が面白いと思い始めて勉強したりしているのだが……そんな簡単に上手くならないのが現実である。
「夕樹は性格悪い戦法を考えるのが上手いしその方向で攻めたら?」
「う〜ん唐突な暴言。僕の繊細な
……今度、ちょっとそういう戦法を考えてみようかな……?
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