第33話 見つからない結論

 僕と美影の対局が終わった後、僕は将棋の勉強を、美影は先程僕の本棚から取ってきたラノベを読んでいた。


「あ、そう言えばこの体勢の理由は?」


 未だに僕の足の上という名の椅子(と美影は言っていた。言っておくが僕の足は普通に足だ)に座っている美影にそう聞く。何か理由があるとは言っていたけど……


「……ここに来た理由は2つある。1つはさっき話したように氷森心達の復讐についての話。そしてもう1つは……」


 美影は僕の足の上に座りながら言葉を止めた。僕が正面を向いている美影の顔を見ようとすると逸らされた。……どうやら顔が合わないように避けているらしい。


「……ゆきに命令されたの。ちょっと前までゆきと勝負をしててそれに負けたから」


「勝負、ね。ちなみにその命令の内容は?」


「命令の内容は……」


 多分勝負内容は将棋とかそこら辺だろう。でも美影は負ける確率の方が高いとわかっている勝負はしないと思っていたが……無理矢理やらされたとか?


 なんて心の中で考察していると、美影が口を開いた。


「……夕樹とカップルみたいなスキンシップをしてきてって感じ。それも結構くっつかないと駄目っていう条件付きの」


「あ〜……成程」


 美影は恥ずかしそうに顔を赤くしている。美影はこう言う状況でも無表情なのかなと思っていたのだが、意外だ。まあ僕もそういう免疫は無いので心臓バックバクなんだけどね。


「…………」


「…………」


 この空間に静寂が走る。美影は視線を下にして俯いていた。僕は話題を出すのはめちゃくちゃ苦手なのだが……なんとかしよう。


 話題……話題……何も思いつかない。天気……は無理だ。なら美影のことについて聞くか?


「え、え〜と、そうだ。ゆきさんって美影と同じ花子さんだけど美影みたいに霊力で結界を貼ったり攻撃したり出来るの?」


 前に心君と戦った時の美影の事を思い出した。なのででその出来事を応用して話題を出す。ゆきさんを出した理由は適当。


「……うん、出来ると思う。でも私より威力や硬さは低いんじゃないかな。ゆきは攻撃よりサポートとかそっちの方が得意だし」


 サポートか。ゆきさんはなんか霊力を使って街破壊無双をする印象があったのでちょっと驚いた。まあ威力が弱いといってもやばそうだけれど。


「あと幻覚を見せたり洗脳したりも出来ると思う」


「げ、幻覚に洗脳? 随分物騒だね……」


「多分ゆきの霊力ならかなり長い時間洗脳出来ると思う。ゆきは力を使う時の霊力量が何故かかなり少ないから数年くらい出来るかも。まあ詳しくはわからないから言えないけどね」


 ……花子さんの霊力の多さを侮っていた。洗脳というのはその効果に比例してかなりの霊力を使うはず。それを数年単位で持続させることが出来る花子さんは相当な化け物と言える。


「……ん? 洗脳……?」


 それに似た言葉を最近聞いたような……でも、そんな事あり得ないかな……?


 洗脳と言えば色々な事に使える。記憶の改竄だって容易だろう。


 僕はスマホを手に取り、ある事を調べる。情報が本当なら、そして僕の推測が当たっているのなら……


「……成程。明後日か……」


「ん? どうしたの夕樹? 何か言った?」


「……いや、なんでも無いよ」


「?」


 首を少し横にして僕の方へ視線を向けてきた美影を少し沈黙してしまったがなんとか誤魔化す。


 そこで僕は今気になった事を質問してみることにする。


「美影。ゆきさんと美影はどれくらいからの付き合いなの?」


「もう覚えてないけど結構昔からだよ。夕樹と会う前はひーちゃん達と集まったりしてた。あ、あとゆきに木の葉神社に連れて行かれる事が多かったかも。思い出の場所なんだって」


 木の葉神社、か。ならゆきさんが心君達の探している霊では無いのか? 心君達の父親が死んだ場所が確か木の葉神社。実際に殺された現場を心君達が調べない訳が無い。他の場所よりも入念に探したに違いない。


「ちなみになんだけどさ。美影から見て心君は優秀な霊力使いの人だと思う?」


「まあ優秀なんじゃない? 攻撃も結構威力強かったし。元々霊力を使える人間は少ないから自信を持っては言えないけど私から見たら優秀な方だと思うよ。まあ私の方が強いのは間違いないけど」


 最後に少し対抗心を燃やした美影に少し苦笑する。ちょっと子供っぽくて可愛いなんて思いながらも頭の中で思案する。


 心君は美影から見てもかなり優秀な霊力使いの人らしい。上位の霊である美影が認めるほどの人はそうそう居ないだろう。それに攻撃の威力が強いというのはそれだけ霊力の扱いが得意ということ。探知だって出来ても不思議じゃない。


 ならゆきさんが隠れようとしてもバレるんじゃないか? だとしたらゆきさんはあの霊では無い、という結論になる。


「というかいきなりどうしたの、夕樹?」


「いや、少し気になっただけ。それよりも美影、最後の質問なんだけど——」


 そして僕は最後の質問を美影にした。


※※


「じゃあね、夕樹。また明日」


「うん、おやすみ」


 そう言った美影は窓をすり抜け、帰って行った。


 さっき考えた理由を踏まえたらゆきさんはあの霊じゃない。ならあの霊は本当に僕達とは関わりのない霊なのかもしれない。


 その後も少し考えてみたが答えは出なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る