第28話 赤い光
水曜日。僕、夢乃夕樹は今、心君が探しているという霊の目撃証言があった木の葉神社に来ていた。
木の葉神社とは幽成高校の近くにある神社でもう使われていない寂れた神社だ。昔はここで小さな祭りをやっていたそうでここに近い人は来たことがある人も多いのでは無いだろうか。僕は今回が初めてだけど。
辺りには整えられていない中々の高さがある草むらがあり、全然掃除がされていないのだとわかる。参道の近くも雑草が生えていて、木々が風に揺れてサァーという音だけが僕の鼓膜を刺激する。
僕は草や葉があまり落ちていない拝殿への参道を歩いて行く。
「血痕は……まあ流石に無くなってるか」
時間とともに消えたのか、それても誰かが消したのかはわからないが参道にその霊を特定する為のヒントみたいなのは無かった。
今は夕方と言われている時間だから何かあるかと思いここに来たが、収穫は無し。まあそう簡単に何かが見つかるとは思っていなかったけどさ。
「家に帰ってゲームでもしようかな」
僕はそう独り言を呟いた後、踵を返して鳥居の方へ向かう。これ以上ここに居てもただ時間を無駄にするだけだ。
「……ん?」
だが僕はすぐに足を止めた。何故なら少し遠くの右の草むらに、誰かが隠れて僕を見ている影を捉えたからだ。もう少し遠ければ見逃してたかも。
「あ、あの〜……どちら様でしょうか?」
僕は恐る恐るそう問いかける。だが——
「あ、ちょっと待って!」
次の瞬間、その影はガサガサという音を立てながら逃げ出した。その時に影の右手が夕方の光に照らされ、中指? の一部分がキラッと赤色に光る。
僕もすかさず後を追うために走り出そうとしたが、その影はかなり速くて撒かれてしまった。
「はや……化け物やん」
その陸上部エースも顔負けの速度に僕はその場に立ち尽くした。あれじゃ追っても意味がない。
「今の、誰だったんだ?」
やはりそこが気になる。美影……なら普通に話しかけてくるか。ひきこさん……の線も薄そうだ。なら八尺様? いや、足が馬鹿みたいに速い人間という可能性も捨てきれない。
「それにあの中指? の光はなんだったんだろう……?」
まあ今は夕方だし夕日が何かに反射したとかそんな感じだろう、と結論を付けて僕は階段を降りていく。
1番下まで着き、帰路を辿ろうと歩き出そうとすると、見知った顔と目が合った。
「あれ、夕樹君かい?」
「心君?」
クラスメイトである心君だった。右手にお札を持っているという事はパトロールとかかな?
「木の葉神社に何か用があったのかい?」
「いや、ただ心君が言っていた霊を探していただけだよ」
僕の言葉を聞いた心君は申し訳無さそうな笑顔を浮かべた。
「ごめんね、夕樹君。俺があんな事を話したから」
「気にしないで良いよ。僕もその霊の事気になるし」
この言葉は半分本当で半分嘘。気になるのはそうだがそれだけでは心君が負い目を感じそうだと思った故の言葉だ。気を遣ったから褒めて欲しいとかでは無い。これはあくまで僕の自己満だ。
「ごめん、夕樹君」
「心君、僕は謝罪より感謝が欲しいな」
「……ありがとう、夕樹君」
心君の言葉に僕は頷き、2人で笑い合う。ひとしきり笑った心君は「ん?」と呟いて右耳を押さえた。
「どうしたの、姉さん。え? 誰って……ああ、そりゃあ聞こえるか。夕樹君だよ」
心君は憐さんと少し会話した後、「え、姉さん勝手に! ……もうミュートにしてるな……」とため息を吐いた。
「どうしたの、心君? パトロールの時間が増えたとか?」
「いや、逆にパトロールの時間は短縮されたよ。でも……」
そこで心君は言い淀み、僕から目を逸らした。その不自然な感じの心君に首を傾げると、心君はバツが悪そうにした。
「夕樹君、突然で悪いんだけど……」
「どうしたの?」
「これから時間あるかい?」
意図がわからない質問に内心で少し警戒しながらも「あるよ」と返答する。
「もし夕樹君が良かったらなんだけど、これから俺の家に来ないかい?」
「はい?」
突然の提案に思わず声が出た。
僕の何気ない「はい?」を怒っていると捉えたのか、心君はバッと勢いよく頭を下げた。
「ごめん! 姉さんが夕樹君の時間があったら家に連れてこいって言われてね……あと楓も前からずっと会いたいと言っていたから……どうかな?」
「僕は全然良いけど……」
「本当かい?!」
「う、うん……勿論」
心君は本当に嬉しそうにガッツポーズをした。そんなに嬉しいのか、という疑問が湧いたが心君の「姉さんからのお仕置きは免れた……」という言葉に目を逸らした。……成程ね。憐さんは思いの外怖い人だったらしい。
「じゃあ行こうか。出来るだけ早く帰せるように努力するよ」
「気にしなくて良いよ。遅れたら連絡すれば良いし」
そうして僕は急遽心君の家に2回目の来訪をすることになったのだった。
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