第29話 あの霊に詳しい人

「そういえば心君」


「ん? どうしたの?」


 現在、僕はお誘いがあり(もっと言うと憐さんと楓ちゃんから)、心君の家に向かっている。


 その道中で僕は前から気になっていた疑問を心君へ聞いてみることにした。


「なんで心君は一人称が俺なの? 心君の穏やかな口調とかからして僕だと思うんだけど」


 そういう人も居る、と言われればそれまでだ。だが僕は心君はそうじゃないと思った。まあ勘なんだけどね。


「そこまで深い理由は無いよ。ただ楓が好きな昔ハマってたアニメのキャラの一人称が俺でね。そのキャラに感化されたみたいで楓が何故か俺にそうするように言ってきたんだ」


「え、楓ちゃんが自分で変えたんじゃなくて?」


「そうそう。当の本人である楓は小さかったから覚えてないと思うけどね。それまでは僕だったんだよ。困っちゃうよね」


 そう言って「あはは」笑いながら困ったような、でも慈愛に満ちた笑顔を向けてきた。


 昔妹に言われた事を今でも守っているのか。凄いな、僕には出来そうにない。まあ心君が家族思いだってのは知っていたけどね。……おいそこ、セコいって言わない。あの時は仕方がなかったんだよ。


「あとキャラ付け」


「やめい」


 そんなメタい心君と会話していると、目的地に着いた。


 心君はただいま〜と言いながら扉を開ける。


「どうぞ」


「お邪魔します」


 玄関のの中に入ると、何故か懐かしいと思う香りがした。1回ここに来ているからかな。でも何か違うような気が……


「お兄ちゃんだ!」


「ただいま、楓。今日はお客さんもいるよ」


 僕が考え事をしていると、奥からドタドタと楓ちゃんが走ってきた。スピード意外と速いな。


「あれ、おにいちゃんもいる! わーい!」


「ぐえっ」


 心君の後ろに居る僕を見るなり楓ちゃんは僕にタックルしてきた。走ってくる姿は年相応の女の子みたいな感じで可愛かったのにタックルの威力は可愛く無い……


「こらこら、駄目でしょ楓。夕樹君にタックルしちゃ。苦しそうじゃん」


「ごめんね、おにいちゃん……嬉しくてかえで気持ちが昂っちゃった……」


「よくそんな言葉知ってるね……全然大丈夫だよ」


 胸の痛みを感じながらお願いされた抱っこを楓ちゃんにしながら心君と楓ちゃんがさっき出てきたリビングへ行く。うん、可愛い。


 リビングでは憐さんがソファに寝転がってスマホを弄っていた。憐さんは僕を一瞥するなり手を振ってきた。


「お〜久しぶり夕樹く〜ん」


「お久しぶりです、憐さん」


 憐さんに軽く挨拶をし、僕は改めてリビングを観察する。


 部屋の中心らへんにはガラスのローテーブル、その側には白いソファがあり、テレビも結構大きい。隣接されたダイニングにはリビングの2倍はありそうなダイニングテーブルに花が描かれた布が敷かれていて清楚な印象を受ける。そして曲線的な椅子は4つあった。


 端的に言えばめちゃくちゃ広いし調度品も高そうだ。え、何? 最初からそう言えば良いじゃんだって? ……文章の練習だよ察してくれ。


「楓懐いてるね〜。どう、夕樹君? 小さい女の子に好かれてニヤニヤしちゃう?」


「言い方に悪意しか感じませんが……まあ人から好かれるのはやっぱり嬉しいですね」


 言っておくが僕は本当にロリコンじゃない。いやマジで。説得力無いかもだけど信じて。


 憐さんは僕に抱っこされながら心君と話している楓ちゃんを見て相好を崩す。先程の心君と同じような妹を想う姉の顔だ。


 その後憐さんはすぐに僕へ視線を移した。その顔は先程の慈愛に満ちた顔ではなく、申し訳無さそうな顔だった。


「ごめんね夕樹君。突然家に呼んじゃって。楓が夕樹君に会いたいって言って聞かなくてさ〜」


「僕は全然大丈夫ですよ。どうせ家に帰ってもゲームするだけでしたし」


 自分で友達が居ないと暴露したようなものだがもうこの際気にしないようにしよう。……僕には美影が居るし。都市伝説の女の子だけが友達ってのも悲し過ぎるけど。


「というか心君が憐さんも僕を家に招いている、みたいに言ってたのですが、何か用事があったんですか?」


「う〜んとね、主な理由は2つ。1つはさっきも言ったように楓が会いたいって言うから。もう1つは手伝いかな?」


「手伝い?」


 何を手伝ってくれるんだ? 今の僕はただ話を聞いているだけなのだけれど……


「夕樹君さ、なんかお父さんを殺した霊を探してくれてるらしいじゃん? なのに私達があまり情報も渡さないのはどうかなと思ってね」


「……成程。でも憐さん達も持っている情報はかなり少ないんじゃ……?」


 それなりに情報を持っているなら心君が教えてくれるはずだ。そうじゃなくても今より捜査は難航していないだろう。


 僕の言葉に反応するように憐さんはビシッと人差し指を差してきた。


「そう、そうなんだよ。私達もあまり情報は無いの」


「なら、無理なんじゃ……」


「姉さん、人に指を差しちゃ駄目だよ」


「……ごめんなさい」


 僕に指を差したことを心君に嗜められた憐さんは少ししゅんとしながら謝った。この中では心君が1番しっかりしているらしい。


「じゃあ具体的にどうするんですか? 情報を持ってないないのなら僕を手伝うことは出来ませんよね?」


「私達が持っていないのなら持っている人に聞けば良い。簡単でしょ?」


 確かにそれなら簡単だ。だがその霊の情報を持っている人なんて……ん?


「憐さん、憐さん達のお母さんはいつ帰ってくるん——」


「へえ、鋭いね、夕樹君。大丈夫、すぐに来るから」


「え?」


「ただいま〜」


 憐さんの言葉の意味が理解できず、情けない声を出した瞬間、玄関の扉を誰かが開ける音がした。声からして女性だろう。そしてこの家に入ってきた。なら、候補は1人しか居ない。


「成程。そう言う事ですか」


「そ。緊張はしなくていいけどちゃんと挨拶するんだよ?」


 薄い桃色の唇を舌で舐めながら、憐さんは楽しそうに言った。


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