第27話 鬼か幽霊か

「な~んだ。夕樹君が死んだんじゃなかったんだ」


「なんで少し残念そうなの?」


「つまんな」


「美影もそうだけど正直に言えば許されるわけじゃないからね?」


 数分をかけて誤解を解いた後、ゆきさんはため息をつき、本当に残念そうにした。もう本当に2人とも僕の事大嫌いなんじゃないかな。


「でも凄いね。そういう家系でも無い人間が霊力を使えるなんて。時々一般人が霊力を使えたみたいな話は聞くけど夕樹君も使えるようになるとは」


 腕を組み、うんうんと頷くゆきさん。そんな話は聞いたこと無いけど時々って言ってたしその人達が隠しているのかな。


「ただ物を浮かせることが出来るようになっただけだけどね。僕の霊力量じゃ美影みたいに壁を作ったり攻撃出来たりはしないし」


 正直に言うと美影みたいな使い方をしてみたかったがそこまで欲を言うと罰が当たりそうだ。


「まあ物を浮かせることが出来るようになっただけいいでしょ。男の子って全員能力とか大好きじゃん」

 

「偏見過ぎる」


 なんの疑いも無いというような顔のゆきさんの偏見にツッコむ。それが嫌いな人もいるだろうし一応訂正しておかないと。


「じゃあ夕樹君は能力とか嫌いなん?」


「大好きでありますです御座いますが何か問題でも?」


「なんて?」


 いや、そりゃあ好きでしょうよ。ラノベ読んでたら能力を題材にしたバトル物とかラブコメとかあるし。男の憧れ(僕調べ)と言っていいと僕は思う。


「まあいつか美影と同じようなことが出来るようになるよ。アクシデントなしであと数十年後に」


「それ死んで幽霊になってるじゃん」


 なんでゆきさんはそんなに僕を殺したがってるんだ。前に美影がゆきさんは他人に厳しいと言っていたけどもしかして僕にも……


「夕樹、安心して。ゆきは冗談を言ってるだけ。前に言ったことは今のところ無い」


「……本当?」


 あの「私は本気で言ってますよ」みたいな顔をしてるのに? いくら美影の言葉でも信じられない。


「も~何言ってるの夕樹君。勿論冗談に決まってるでしょ☆」


「くっ……」


 パチンとウインクをして笑みを浮かべたゆきさんが想像以上に可愛く、僕は胸を手で強く押さえる。


 だが、直後前方から感じた冷たい殺気に、僕は反射的に姿勢を正した。ゆきさんも「やべっ」と呟きながらあたふたしている。


「ま、待ってよ美影。い、今のは夕樹君も演技じゃん? そんなに本気にしないでよ。ね?」


「デレデレしてるのは演技には見えなかったけど」


「え、演技だったよね、夕樹君?」


「も、勿論演技だよ。ゆきさんにデレデレなんてするわけないじゃん」


「夕樹君、もうちょっと言い方あったでしょ」


「……怖くて頭が回っていませんでした」


 ぼそっと耳元で抗議してくるゆきさんにそう言い訳をする。そう、言い訳だ。自分でも理解している。でも今の美影怖いし仕方なくない? 心君と対峙してた時ほどではないけど圧が凄いし。


 だが僕の言葉が功を奏したらしい。美影から出ている冷たい霊力が消えていっている。


「ねえ夕樹君! 夕樹が物を浮かせるところ見てみたいな〜!」


 ゆきさんが話を逸らす為に僕にそう言ってきた。ゆきさんの笑顔は引き攣っていて白々しさは結構あるが今はありがたい。空気を変えるために乗らせてもらおう。


「さっき出来るようになったばかりだから出来なくても許してね?」


「あ、そっか。夕樹君人間卒業してなかったわ」


「……これも冗談と受け取って良いん……だよね?」


「勿論!」


 ゆきさんはにっこにこの笑顔を僕に向けてくるがやはり信じられない。可愛ければ何しても許されると思うなよ? 僕は騙さ……れな……いカラナ?


「ゆきは冗談か本当かが分かりにくい。夕樹が困惑するのもわかる。私でもたまに疑っちゃうから」


「でもそんな私も好きでしょ?」


「くっつかないで離れて暑苦しい邪魔」


 本当に楽しそうな笑みを浮かべながらゆきさんは美影に抱き着く。美影はだるそうに顔を歪めながらゆきさんを引き剥がそうとしている。だがゆきさんは全然剥がれない。


「くっ……ゆき力つよ……!」


「夕樹君早く物浮かしてよ~」


「今? それ本当に今?」


 美影に顔を押されながら絶対に今じゃない事を言うゆきさんに思わず僕はツッコんでしまう。だが当の本人であるゆきさんは美影に頬をスリスリしながら僕へ視線を向けてきた。


「早く~」


「うぐぐぐぐ……」


「ま、まあゆきさんがそのままでいいなら僕は良いけど……」


「私はだいじょ~ぶだから早く~」


 ゆきさんの返答を聞いた僕は目の前にある黒板消しを見る。あ、美影諦めた。


「じゃあ、行きます」


 僕は目を瞑り、集中する。美影に言われたことを思い出しながら霊力を掌から出して黒板消しを触る。


 僕に触れられた黒板消しは周りに霊力を纏わせながら宙に浮いた。


「おお、凄い! やるね!」


 ゆきさんは浮いた黒板消しを見て感心の声をあげる。だがまだその両手は美影をがっしりと捉えていた。


「……ゆき、お願いだから離して……」


「え、嫌だけど?」


 美影の疲れ果てたような目、そして姿を見てもなお真顔で拒否するゆきさん。顔が整っている2人がわちゃわちゃしているのは僕は良いが……ゆきさん、鬼だな……


「……夕樹……」


「僕にも無理だと思う。ごめん美影」


 僕を無の瞳で見てくる美影に心の中で手を合わせる。そして僕はゆきさんにされるがままになっている美影を微笑ましく見るのだった。


 

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