第25話 そんな設定あったな

「なんで……美影達は……その霊を……探してるの……?」


 ベンチに座った僕達は談笑を始める。席順は左からひきこさん、僕、美影だ。気まずいことこの上ない。特に左からの圧(僕の勘違いかもしれないけど)が凄い。


「ある人間の頼みでしょうがなく、だよ。私はその霊に興味なんて無いし」


「多分……饅頭に釣られた……」


「うっ」


 流石というかなんというか、完璧に美影の行動と思考を見透かしている。


「やっぱり……美影はチョロい……」


「チョロくない! 夕樹だってそうなるし!」


「なんで僕に飛び火した?」


 饅頭に釣られるからってチョロいとは思わないけど美影はチョロい。僕は饅頭には釣られないし。


 そんななんて事もない雑談を少しした後、時計を確認した僕は帰る為に立ち上がった。


「もうそろそろ帰るよ。明日も学校だし」


 心君が図書室に来た今日は月曜日の為、明日は火曜日。つまり平日だ。これ以上は明日の授業に響きかねない。


「じゃあ送ってく。夜に1人じゃ危ないだろうし」


「それは男に言う台詞では無いと思うけど……」


「私は……戻るね……またね、みーちゃん……」


「うん、またねひーちゃん」


 そんな言葉を交わしたあとにひきこさんは僕の家とは反対方向に歩き始めた。


 僕達も行こうかと話し、歩き始めた所で後ろから「あ……忘れてた……」という声がしたので振り返る。


「夕樹君……1つだけ忠告しておく……」


「忠告?」


 首を傾げた僕を見据えているひきこさんの瞳は何故か不安の色が混じっている気がした。


「はっちゃんには……気をつけて……きっと美影も気づいて無いから……」


「え?」


 はっちゃんとは八尺様のことだろう。気をつけてというのは鉢合わせた時に命を守る行動をしろ、という事だろうか?


「そこまで悪いことじゃない……美影にとってはだけど……じゃあ……またね……」


「え、あ、今のはどう言う事ですか?」


「多分……君とはまた会うことになる……その時に全て理解すると思う……」


「え?」


「死にそうって時は……この公園に来て……美影の知り合いなら……助けてあげる……」


 そうしてまたひきこさんは歩いていってしまった。僕は取り敢えず美影を見てみるが、美影も訳がわからないようで首を傾げていた。


「今のどういう事?」


「いや、僕に聞かれても……」


 八尺様が危険……元々警戒しているが更に強めておいた方が良いかもしれない。でも次にひきこさんに会った時に理解するってどういう事だ? 情報が足りなさ過ぎる……


 これ以上考えてもわからないだろうと割り切り、僕達は歩き出す。まあ最悪サレンダーを決め込めばなるようになるだろう。ダサい? もう言われ慣れたわ。


「夕樹、一応私ももう一度はっちゃんに言っておくから。ひーちゃんもあの感じなら助けてくれるだろうし」


「……僕も霊力が使えたらなぁ」


「霊力が使えてもはっちゃんに喧嘩売ったりしないでね?」


「しないよ!」


 八尺様に喧嘩売るとか本当に首と胴が泣き別れになってしまう。八尺様は霊力の塊だろうし、まず都市伝説に人間が勝てる訳が無いのでそんなことは考えないし考えたくもない。まあ僕は使えないから前提が崩れるんだけどね。


 街灯が照らしている帰路を2人並んで歩く。これが階段なら「並んで歩いてんじゃねえよ配慮しろカス」と言われると思う。気持ちはわかる。あの通れそうで通れない微妙な前の人と壁との隙間がまたムカつくんだよね。でも今は周りに人居ないし許してください。


「霊力が使えたら色々と便利なんだろうなぁ……美影の波動みたいにして霊力出すのかっこ良かったし物も浮かせられるみたいだし」


「少しだけなら夕樹も使えるよ?」


「みなまで言うな。僕だってこれはたらればだってわかって——え?」


 今、美影はなんて言った? 霊力が使えると。そう言ったのか?


「使えるの?!」


「使えるよ?」


 さも当然のように衝撃の事実を言う美影に開いた口が塞がらない。多分今の僕はこの世界で1番間抜けな顔をしていることだろう。


「と言っても本当に少しだけどね。夕樹が憧れた波動みたいにして攻撃とかは無理だよ」


「い、いや、流石にそこまでは望んで無いよ。でも、本当に?」


「うん。前に私の霊力が少し夕樹に移ってるって話したと思うけど、その霊力を使えば物を浮かばせるくらいなら出来るんじゃない?」


 そういえばなんかそんな話が会った気がしなくもない気がするかもしれない。そんな設定作者でも今思い出し——これはメタいか。


 じゃあ僕も今この手にあるスマホを投げて霊力を使えば浮かせ——!


「今すぐは無理だけどね」


「うわっとと! あっぶな!」


 空に放ちそうになった僕のスマホ《あいぼう》を指の力でなんとか抑える。あっぶな! もう少しで自由落下からの相棒がバキバキになるところだった!


「…‥馬鹿?」


「……すいませんでした」


 そりゃ今すぐは無理ですよね〜わかってました。でもやりたくなるじゃん。漫画みたいに物浮かせたいじゃん!


「それはまた明日ね」


「そんな……生殺しな……」


 僕の背中をさすりながら「ちゃんと教えてあげるから元気だして。まあ夕樹が使えるようになるかは知らないけど」とフォローのような直接会心精神攻撃ダイレクトアタックをかましてきた美影に僕は悲しみの目を向けるのだった。

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