第24話 ひーちゃん

「みーちゃん……急にどうしたの……? 私をこんな所に呼び出して……」


「ごめんねひーちゃん。ちょっと聞きたいことがあってさ」


 幽成高校の近くにある公園。そこで僕と美影はとある有名な都市伝説と会っていた。


「それに……そこの人間は……誰……?」


「あ、あはは……」


 目の前で僕を睨んでいる女性の名はひきこさん。雨の日に人間を引きずり殺す超怖い都市伝説だ。


「誰……なの……?」


(い、今すぐ帰りたい……!)


 何故僕達はひきこさんと会っているのか。それは数時間前に遡る。


※※


 心君が美影にお願いを言いに図書室へ来てから数時間が経った頃、外はもう闇に染まっており、ザーザーとかなりの量の雨が降っている。既に夕食や風呂は済ませているので僕は自室のベッドでゴロゴロとしていた。


「ラノベでも読むかなぁ……暇だし」


「こんばんは、夕樹」


「ん? あれ、美影?」


 本棚に収納しているラノベを見て何を読むか決めようとしていると、聞き覚えのある声が後ろからしたので振り返る。すると、何故か美影がいた。


「驚かないんだ。ちょっとつまらない」


「流石にもう慣れたよ。それで、どうしたの?」


「夕樹、公園に行かない?」


「今から?」


 現在時刻は22時。外出するのには少し遅すぎる気がするし、雨も降っている。それに何故公園なのだろうか?


「さっき氷森心が言ってた霊の情報を集めるために友達と会う約束をしたんだ。私1人でも良いけど一応夕樹にも聞かせた方が良いかなって思ってさ」


「成程。う~ん……」


 南さん達はもう寝てるし、個人的にその話は気になる。


「僕も行こうかな。雨に濡れたとしても玄関にタオルとか置いておけば何とかなるだろうし」


「決まり。じゃあ行こうか。急ぐから全速力で行くよ」


「え、いやちょ!」


 美影は僕の事をお姫様抱っこした後、窓から飛び降り、走り出した。美影のスピードが速すぎて僕は怖くてある事を忘れていた。美影の友達は普通ではない、という事を……


※※


 で、こうなっている。降っている雨は僕の心を表しているようだった。いつもは肌に張り付く濡れた服が気になると思うけど今は緊張でそんなことは気にならない。背中を伝う水滴は雨なのか、汗なのか、全然判断がつかなかった。


「ひーちゃん、この人間は前に話してた夕樹。夕樹、この子は私の友達のひーちゃん。あ、ひきこさんって言わないと伝わらないかな」


「…………ひきこさん」


「君が……夕樹君……なの……?」


「は、はひ! そ、そうです!」


「そう……君が……」


 ひきこさんが半開きの目で僕の事をジロジロと見てくる。正直死ぬほど怖い。


 吊り上がった目に口は耳ほどまで裂けており、身長は185cmほどはありそうだ。髪は長いが手入れがされていないのかボサボサで、白い着物には所々に傷や泥が付着していた。


 だが、顔は髪で隠れていても美人であると思う。顔に傷があるとかって噂があったと思うけど、まあ所詮は噂かな?


「あ、あの、僕の顔に何か付いていますか?」


「……君……寒くないの……?」


「え?」


 ひきこさんから出てきた予想外の言葉に僕は呆気に取られる。


「だって……濡れてる……君は人間でしょ……風邪を引いちゃう……」


「だ、大丈夫です。雨もかなり上がってきましたし、なんとかなると思うので……」


 もう傘をささなくても良いくらいには晴れてきていて、空では月も見えた。


「風邪は辛いって……聞いたことがある……気をつけて……」


「は、はい。わかりました?」


 なんか、僕の印象と大分違う。もっとこう、会った瞬間に腕を掴まれて霊特有の怪力で引きずられそうになるのかと思ってた。


「夕樹、肩の力を抜いて大丈夫」


「……みたいだね」


 僕は深呼吸をして暴れている心臓をなんとか落ち着かせる。最悪美影がいるし大丈夫かなと思っていたけど杞憂だったみたい。……女性に守られるって男としてはダサいかもだけど許して欲しい。怖いものは怖いんだもの。


「2人の紹介も終わったことだし。ひーちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


「なに……?」


 ひきこさんはさっきと変わらずに暗い雰囲気とだるそうな声で返事をする。


「髪はショートの白で性別は男。水色のカーディガンをよく着ている霊を探しているんだけど」


「随分と……おしゃれな霊だね……」


 ひきこさんはそう呟いた後視線を下げ、少し沈黙する。


「もしかして……あれかな……」


「知ってるんですか?」


「本当に……少しだけ……だけれど……」


 まさか知っているなんて思わなかった。少しの情報でも僕達にとってはかなりありがたい。


 というか美影が心君の為にここまで協力なんて。饅頭の力だろうか?


「その霊を……木の葉神社で見たって……最近聞いた……時間は……夕方くらいだと思う……」


 木の葉神社はこの公園や幽成高校から徒歩でも行ける神社だ。それに夕方というのは心君の話とも合致する。


「これくらいしか……知らない……ごめん……」


「全然大丈夫。ありがとう、ひーちゃん」


「もう少し……話す……?」


「うん。夕樹はどうする?」


「お邪魔じゃなければ混ざろうかな」


 ひきこさんの事も結構興味が出てきたしひきこさんと話すことはそうそう無いだろうからこの機会に色々と話してみたい。


「じゃあそこのベンチに座って話そう? ひーちゃんも夕樹もそれで良い?」


「うん」


「私も……異論は無い……」


 そして僕達は3人でベンチに座る。


 僕は心の中で南さん達が起きたらどうしようと不安になったが、家に帰った未来の僕に任せることにした。

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