第23話 友達の良さと怖さ

「ねえ、夕樹。私気になってることがあるの」


「いや〜今日の授業も疲れたな〜」


「そうだね。特に数学が難しかった気がするよ」


「あの先生怖いよね。僕毎回当てられないかビビってるよ」


「……夕樹」


「はい」


 やっぱり逃げられないよね。まあ逃げるつもりも無いんだけどさ。無理だって理解してるし。


 今この図書室には3人居る。1人目は僕。2人目は美影。そして3人目は——


「なんで氷森心がここに居るの」


「なんか話したいことがあるんだって。だよね、心君?」


 心君はコクコクと頷いた。だが美影の訝しむような視線は今も心君を貫いている。


「私と君は敵だよ? 次私の前に姿を現す時は命を差し出す覚悟を持ってと言ったはず。覚悟は出来て——」


「これ、手土産の饅頭。姉さんと楓が好きらしくてね。家にあったんだよ」


「いつでもここに来て。お茶出すから」


「饅頭に弱過ぎる」


 めちゃくちゃ早いじゃん。饅頭を持って行った方がって伝えたのは僕だけどここまでの速度だとは思っていなかった。


「ふおおおおお………!」


 美影は心君から饅頭を貰った天に掲げ、目をキラキラとさせている。


「今攻撃すれば勝てるんじゃ……?」


「いや、心君が思ってるほど美影は弱く無いよ。それにああ見えて多分警戒してる」


「もしかして花子さんの弱点って饅頭かな?」


「多分それは美影だけ」


 ゆきさんは何が好きなんだろう? 飛車とか与えれば喜ぶのかな? ……流石にそれは無いか。


「で、花子さん。聞きたいことがあるんだけど」


「美影で良い。私は心さん、いや、心様とお呼びさせて頂きます」


「ごめんさっきの嘘。美影弱いかも」


 心君が死ねと言えば死にそうなほどの雰囲気がある。


「まあ、そんな冗談は置いておいて。質問ならこの饅頭の分は答えてあげる。要件はなに?」


「あ、嘘だったんだ」


 完全に本気だと思ってた。今も饅頭を強く抱きしめてるし。


「じゃあ早速聞かせてもらうよ。父さんを殺したという霊は昔母さんが祓ったって言ったけど、最近母さんにまたその霊を見たかもしれないと言われたんだ。そこで、今花子さんが持っているそいつに関する情報、そして目撃したら俺に教えて欲しいんだ」


「……成程ね。そいつの情報を聞かせて」


 心君も美影も先程の空気が嘘のように消えて真剣な表情になり、顎に手をあてる。


「母さんから聞いた情報では髪はショートの白で性別は男。水色のカーディガンをよく着ているらしい」


 水色のカーディガン……幽霊にしては珍しい服装な気がする。それならかなり目立つだろうし見つけやすそうだ。


「わかった」


「ありがとう、花子さん」


「今は殺さないけど私達は敵同士。それにこれは饅頭の借りを返すためだからお礼はいらない。どうしてもしたいのなら饅頭を持ってきて」


「あはは、了解だよ。あと申し訳ないんだけど夕樹君。君もあいつを見たら教えてほしい」


「勿論良いよ」


 心君は相好を崩して僕に「ありがとう」とお礼を言い、すぐに踵を返して扉の方へ歩き出した


「お邪魔したね。僕は帰るよ。また学校でね、夕樹君」


「うん、じゃあね」


 そして心君は帰って行った。まったく、イケメンの笑顔はずるいぜ。


「さて、心君も帰ったことだし、雑談でも――いてっ」


 心君を見送り終わり、美影の方へ振り返るといつの間にか後ろにいた美影が僕の頭に手刀を落とされた。


「ど、どうしたの美影?」


「氷森心が来るのなら先に言って。報連相って知らないの?」


「い、いや、少し話すだけだろうし大丈夫かなって」


「私だったから良かったけどこれが氷森心を知らないゆきとかはっちゃん達だったら殺し合いになってたよ?」


「次から気を付けます。神に誓います」


 僕が考えていた想像の120倍はやばい結末だった。本当に気をつけよ。


「というか八尺様たちはまあわかるけどゆきさんってそんな怖いイメージないんだけど……なんか『あ、人間じゃん。やっほ~』みたいな感じで軽く流しそう」


 あのゆきさんが人間を殺すって想像がつかないな。僕のゆきさんのイメージはトイレの花子さんとは真反対なんだけど。


「ゆきは一度仲良くなった、もしくはなろうとした人や幽霊には優しいけど他の人間には私より冷たい」


「……具体的に言うとどんな感じ?」


「普通の人間なら目と目が合った瞬間首と胴が泣き別れになるのを覚悟した方が良い」


「ひえっ」


 マジでやばいやつやん。ゆきさんって上弦の鬼だったりする?


「でも普段は良い人だよね」


「うん。優しいし話しやすい子だと思う。気遣いもできるしあんな感じでも意外と聞き上手だし」


 いつもより生き生きとしながらすらすらとゆきさんの誉め言葉を言う美影。ゆきさんがいる時はちょっと冷たげでもちゃんと見ているんだなと思い、新たな美影の一面を見れたと心の中で密かに嬉しくなった。


「あとたまに饅頭持ってきてくれるし」


「結局そこなんかい」


 さっきの言葉、ゆきさんに教えたら面白そう。


「ぶっ飛ばすよ?」


「うん、なんで?」


 

 

 






 


 

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