第18話 1週間ぶりの再会
「やっと明日休みだ〜」
休日である明日のことを考えると顔がニヤけてしまう。ゲームだったり……少し外を散歩してみるのも良いかも?
「美影〜来たよ〜」
「あ、夕樹君じゃん。よ!」
「あれ、ゆきさん?」
図書室の扉を開けると、美影だけではなくゆきさんも居た。前に1度会ったきり会っていなかったので5日振りかな?
「むむむむ……」
僕は何故美影が唸っているのかが気になり2人が座っている机に近づく。その時に良い香りが僕の鼻腔を刺激した。これは……ゆきさんのにおいか——変態みたいだからやめておこう。
「将棋?」
「そうそう。美影とやってるの」
美影とゆきさんが将棋をしていた。余裕そうに僕と話しているゆきさんに対して美影は眉間に皺を寄せ、唸っている。
「これは……詰み、かな?」
「お、美影が成長してる。よくわかったね」
「え、まだ行けそうな感じするけど」
僕は初心者なのでよくわからないがまだ金や飛車のような強いと言われている駒はあるし、どこにも動かせないというわけでもないはずなのに。
「ほら、見て夕樹君。金と飛車はどこに動いても取れるように配置してるしあと5手くらいで王手だね」
「本当だ……ゆきさんって将棋強いんですね」
金や飛車が強いくらいしか知らない僕にもわかりやすいほどの詰め方だった。
僕が呆然としながらゆきさんを褒めると、いつかの美影と同じく胸を張ってドヤ顔しだした。
「ふふん! まあね〜!」
少し褒めたらめっちゃ調子に乗り出した。少しムカつくけど将棋が強いのは否めないので何も言わないことにする。
「やっぱりゆきには勝てないね」
「まだまだ弟子には負けませんよ」
悔しそうにゆきさんを見る美影。そんな美影にドヤ顔を返すゆきさん。なんかそのドヤ顔やめさせたくなってきた。
「美影、ゆきさんと折り紙で勝負してみたら?」
「おいそれ絶対私が負けるやつやないかい」
「それも良いけどどうせなら将棋で勝ちたい」
僕は美影の実力がまだ理解していないけどゆきさんに勝つのは相当厳しい気がする。プロの人とももしかしたら互角に打てるんじゃないかな?
「ゆきさんは将棋が上手くて、美影は折り紙が出来て……僕、そういえば特技とか無いかも」
折り紙は多少出来るようになったけど美影ほどじゃないしなぁ。ボードゲームもそこまで上手じゃない、というかルールしか知らないみたいなのも沢山あるし。
「夕樹君も何か興味があるものを見つければ良いじゃん。なんかないの?」
「う〜ん……」
「けん玉とか、ペン回しとかさ。オセロだって良いしトランプを使う何かとか」
「う〜ん……」
将棋やトランプのマジックとかはかっこいいと思うけど……そこまで熱中出来そうかと言われればそうじゃ無いと思うんだよなぁ。
「夕樹にもあるじゃん、特技」
『え、あるの?』
ゆきさんと僕の言葉がハモった。自分で聞いてしまうくらいびっくりしたけどゆきさんにもそう言われるとなんかモヤモヤする。
「鋭い所」
「え?」
「あ〜成程ね。それはそうかも」
キョトンとする僕の隣でゆきさんはうんうんと頷いていた。
「私が美影に化けてた時も見破ってたからね」
「私が黒板消しを落としたトリックも当ててたし」
「……これは特技なのかな?」
『さあ? 多分そうなんじゃない?』
仲良いね2人とも。タイミングもイントネーションもそれに首をコテンと傾けたのも全て完璧だったよ。
それにしても、鋭いって特技なのかな? それに本当に鋭いかもわからないし。
「特技なんてなくても夕樹にはいっぱい良い所があるから大丈夫」
美影の優しいフォローが僕の胸に沁みる。温かい……
「まあ特技なんてなくても死にはしないし」
「まあ、それは確かに……」
結構極論な気もするが間違ってはいない。特技が無くて人が死んだなんて聞いたことないし。
と、そこで突然僕の頭にある疑問が浮かんだ。
「というか聞き忘れてたけどなんでゆきさんはここに居るの?」
むむむと唸っている美影に気を取られていてあの時聞くのを忘れていた。
「え、暇だから遊びに来ただけだけど?」
「まあそんな感じだろうなとは思ったけど」
逆にちゃんと理由があった方が驚いていたと思う。だってほら、ゆきさんって適当じゃん?
「あまり失礼な事を言うとぶっ飛ばすよ?」
「すいませんでした」
ナチュラルに心を読まれた……ラノベとかにこういうの結構あるけど女性には心の声を聞く能力が標準装備されているのだろうか?
「まあ許してやろう。夕樹君だって他に用事とか無いから来てるんでしょ? 暇なら私達と一緒に将棋しよ」
「僕、ルールすらもあやふやなんだけど」
「それは私達が教えるからだいじょーぶ! ね、美影?」
「うん、夕樹もやろ」
美影が自分の隣の椅子をポンポンと叩いた。僕はそこに座り、盤面を覗き込む。
「じゃあルールの確認からね。まずは——」
それから外が暗くなり、僕が帰る時間まで将棋で遊んだ。
※※
俺達の家がある住宅街をパトロールする。手、そしてポケットにはお札を数枚入れて周囲を警戒しながら歩く。
『ここら辺終わったら次は幽成高校の方ね〜』
「了解」
右のイヤホンから聞こえてくる姉の言葉にそう返す。おい、ポテチを食べるな。こんな時間に食べたら夕食を食べられなくなるでしょ。
今はまだ夕方と呼ばれる時刻。これくらいの時間、そして深夜に霊は多く出る。それを祓うのが俺の役目だ。
「ここら辺は問題無い、かな」
『じゃあ幽成高校へれっつご〜』
気の抜けるような声で「お〜」と言ってる実姉にため息を吐きながら俺は歩いていく。
幽霊なんてこの世にはいらない。そうだろう、父さん、母さん?
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