第15話 決してロリコンではない
僕と楓ちゃんは手を握りながら公園の近くを歩く。小学生、それも低学年の子が迷子になったといってもかなり遠くまで歩くのは無理だろう。だからここら辺にあると思うんだけど……
「あの、おにいちゃん」
僕が楓ちゃんの家の場所を推理しようと思考を巡らせていると、楓ちゃんが握っている僕の手を強く引き留めてきた。
「どうしたの、楓ちゃん?」
「かえでのおうちあった」
「え? どこ?」
「あそこ」
楓ちゃんは白い2階建ての家を指差した。ここは公園から歩いて5分もかからない住宅街の一角だ。僕の推理は意外と正鵠を射ていたと少し嬉しくなる。
「そっか。じゃあもう少し頑張れる?」
「うん」
「楓ちゃんは偉いね」
「えへへ」
楓ちゃんは子供っぽい可愛い笑みを浮かべる。やばい、可愛過ぎる。頭撫でたい……いやいやいやいや!
「僕はロリコンじゃない僕はロリコンじゃない」
「どうしたの、おにいちゃん?」
隣から可愛い心配の声がしたので急いで笑顔を作り、楓ちゃんに向ける。
「な、なんでも無いよ! 行こっか!」
「う、うん」
そうして楓ちゃんが指を差した家に向かう。会った頃よりも楓ちゃんの緊張が解れているみたいで一安心だ。
家の近くに着き、表式を確認する。ここの人、氷森って人なんだ。珍しいな〜……え?
「楓ちゃん! ちょっと待って!」
「ただいま〜」
楓ちゃんは僕が止めるより早くその家の扉を開けてしまった。氷森という名字は多分あの人しかいな——
「楓おかえり〜。1人でどこかに行っちゃ駄目でしょ? 楓はまだ子供なんだから誰かがついていなきゃ……ん?」
「……どちら様でしょう?」
「にいちゃん、それ私の台詞なんすよ」
※※
「成程。迷子になった楓をここまで送り届けてくれたと。ありがとね、夕樹君」
「おにいちゃんありがとう」
氷森家のリビングに通された僕は心君のお姉さんだという
「いえ、お気になさらず。それよりも……まさか心君にお姉さんと妹さんが居るなんて」
「あいつ、君に言ってなかったんだね」
「まあ、なんの脈絡もなく姉と妹がいると言うのもおかしいと思ったのではないでしょうか?」
「確かに! それもそうだね」
憐さんはカラカラと笑った後、興味深そうに僕を見てきた。
「ていうか、君が心の話してた夕樹君なんだね」
「心君が、話してた?」
「そうそう。良い子だ〜って」
心君が僕の話をしていて嬉しいような、でもなんか不安なような、そんなよくわからない気持ちになる。
「ねえ、おにいちゃん」
「どうしたの、楓ちゃん?」
僕の膝に座っていた楓ちゃんが首を曲げて上にある僕の顔を見てきた。楓ちゃんのつぶらで可愛らしい瞳が僕を捉える。
「一緒に写真撮ろう?」
「……なんで?」
突然のよくわからないお願いに僕は困惑する。なんで急に写真を撮ろうってなったのだろう?
「あはは、楓は写真好きだからねぇ。夕樹君さえ良ければ撮ってあげて?」
「楓ちゃんが良いなら僕は大丈夫ですが……」
「ありがとう、夕樹君。楓、ポーズとかはどうするの?」
「このままで良い。お姉ちゃん撮って?」
「はいはい」
憐さんは慈愛に満ちた目を楓ちゃんに向けながらカメラを持つ。ごめん、苦手って言ったの嘘かも。
その後、憐さんが写真を2、3枚ほど撮り楓ちゃんに見せると、キラキラと目を輝かせていた。可愛いけど楓ちゃんが膝から降りてしまったのでちょっと悲しい。いや、ロリコンじゃなくてね?
「お姉ちゃん」
「わかってるわかってる。すぐ現像してくるからアルバムに入れようね。あ、夕樹君も欲しい?」
「欲しいです」
「思ったよりも食いついてきた。ちょい待ってね〜」
そう言って憐さんはリビングを出てどこかへ行ってしまった。
僕はズボンのポケットからスマホを取り出し、時間を確認する。
「もう19時なんだ。流石に帰らないきゃまずいかも」
一応南さんに連絡しているのである程度は大丈夫だと思うが出来れば早めに帰っておきたい。
「おにいちゃん、かえっちゃうの……?」
「うぐっ」
泣きそうな顔、そして上目遣いで僕を見てくる楓ちゃんに胸が苦しくなる。い、痛い……心が痛い……
「ごめんね、楓ちゃん」
「楓〜? 夕樹く〜ん? 持ってきたよ〜って、あれ、もう帰るの?」
僕がソファから立ったその時、憐さんが数枚の写真を持ってリビングに帰ってきた。
「はい。これ以上は心配かけちゃうと思うので」
「まあ確かに。気をつけて帰るんだよ〜」
「はい、ありがとう御座いました」
「……またね、おにいちゃん」
「うん、また」
楓ちゃんの泣きそうな表情に胸が締め付けられるような感覚になるが気にしないようにして外へ出る。
外はもう真っ暗になっており、僕の前に見える道では数本の街灯が先を照らしていた。
「この写真、良いな」
住宅街に僕の独り言が反響する。後で写真撮ってスマホのフォルダにも保存しておこ。
そのまま25分ほど歩いて家に着き、南さんにただいまの挨拶をしてから2階へ上がって自室の扉を開ける。なんか扉の隙間から流れてくる空気が冷たいような……
「おかえり」
「……なんでいるの?」
誰も居ないはずの僕の部屋に、美影が居た。それも、僕にも見えるくらいの圧倒的な量の霊力を部屋に充満させながら。
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