第45話 嫌いなもの
「はぁ……」
今日はこれで何回目のため息だろう。数えていないのでわからないが10回は超えてる気がする。
理由は勿論テストだ。ゆきさんがなんで知ってるのかは分からないがあの言葉で思い出した。
来週の月曜日。日曜日はぐだくだして過ごした。今日は月曜なので丁度1週間後くらいだ。
この学校は結構、いや、かなり偏差値が高い学校なので面倒だ。将来の為にも良い成績は取っておきたいけど……
この学校で上位の成績という事はつまり勉強をしなければいけないという事。僕は勉強が嫌いです。ならなんでこの学校に入ったというツッコミは無しで。
「面倒だなぁ……」
憂鬱な気分になりながら旧校舎の図書室の扉を開ける。ここで少し勉強しようと思っているがそう考えている時点でやる気はゼロなのだろう。
「やあ、夕樹。一昨日ぶり」
「僕は勉強が嫌いです」
「脈絡の無さ日本一」
そりゃ脈絡も無くなる。だって僕は勉強が略。
「今日は多分勉強しに来たんでしょ? 部屋でした方が集中出来るんじゃない?」
「まあ……気分かな。ここでしようかなって思って」
大半の部分が嘘で固められた言葉がスルスル出てくる僕は詐欺師の才能があるのかもしれない。
「私は本を読んでるからそこで勉強して」
美影は右手で自分の前の椅子を指差す。ちなみに左手には開かれた本が握ってあった。
僕は取り敢えず美影が指差した椅子に座る。そして鞄から教科書を取り出——
「勉強、嫌だなぁ」
そうとしたが無理だった。鞄にのばした手は力なく垂れた。
「勉強、嫌いなの?」
美影の質問に僕はため息を吐きながら答える。
「うん、嫌いだね。めちゃくちゃ嫌い。特に数学はゴーヤと同じくらい嫌い」
「……ゴーヤ?」
「そう、ゴーヤ」
あの絶望的な苦味が大嫌いなんだ。噛むごと噛むごと苦味苦味。あんなの食べ物じゃない。
「……そう。ゴーヤに数学、ね……」
「ん? どうしたの?」
美影の反応に含みがあるような気がして問いかける。
だが美影は「なんでも無い」と首を振った。僕は少し訝しながらも退く事にする。
「それよりも勉強しないの?」
「……しないとだよねぇ」
でも勉強になるとやる気が出ないのが僕。いや、人の性と言えるだろう。
「何かご褒美があればなぁ……」
テスト終了後にコンビニでスイーツを買うとか? ……なんて貧相な想像力だ。しかも全然やる気が湧いてこない。
「じゃあ美影が何かしてあげれば良いじゃん!」
その時、バン! と図書室の扉が開く音がしてゆきさんが現れた。
「やあ、ゆきさん。消えてくれ数学」
「冷静にぶちキレるじゃん。どしたん?」
「それで? さっき言った事を詳しく説明して、ゆき」
「夕樹君とは別の意味で冷静だね、美影」
ゆきさんが美影の隣に座ったのを確認してから美影と僕はゆきさんに目を向けた。
「で、ゆき。さっきのはどう言う意味?」
「どうもなにもそのままだけど? 夕樹君がご褒美を思いつかないのなら私達が考えれば良い!」
「……私も思いつかないんだけど」
「ちなみに私も思いついてない!」
「馬鹿」
「酷い!」
大袈裟に驚くような素振りをしたゆきさんにジト目を向ける美影。そんなコントのような2人の会話を見て少し笑う。
僕が今思いついているのはスイーツを買う、奮発してピザや寿司などを買うくらいだ。マジで想像力がなさ過ぎて泣きそう。僕、大食いキャラじゃないのに……
『う〜ん……』
3人で頭を悩ませる。いやまあ僕が無理矢理やる気を出したりすれば解決するのだがそれが出来るのなら苦労しない。
「2人きりで過ごす……のは毎日やってるもんね。そう思うとこれかなりの難問な気がするなぁ。そこら辺のカップルよりもラブラブでしょこれ」
『え?!』
ゆきさんの言葉に僕と美影の反応がハモった。
「き、急に変な事を言わないでよゆきさん! ラブラブってまず僕と美影は付き合ってないし! そんな事言ったら美影が迷惑するでしょ!」
慌ててゆきさんの言葉を否定する。取り敢えずの対応としては良いフォローだったのではないだろうか。
「あはは、そんなに否定して良いの?」
「え?」
ゆきさんが美影に視線を移すのを見て、僕も同じようにする。
「…………」
移した視線の先にいた美影は呆れたような目で僕を見てきていた。……どうして?
「そうだ! テストで上位……10位以内を取ったら美影が夕樹君にスキンシップを取る! こんな感じでどう?」
『え?!』
また僕と美影がハモる。天丼だ。
「どう? どう? 中々良いんじゃ?!」
「……僕は良いけど美影の許可を取らなきゃ駄目でしょ」
「良いよ」
僕が言葉を言い切ったのと同時くらいのタイミングで美影の声が聞こえた。
「……良いの?」
「それで夕樹が勉強出来るのなら」
美影が了承するとは思わなかったので驚いた。だが美影の了承が得られたのなら僕が断る理由も無い。
「勉強、ちょっと真面目に頑張るかぁ」
僕は天井を見上げながらそう呟いた。
「頑張れ、夕樹」
「がんば〜」
そんな2人の応援を受けながら。
でも、僕は思う。それ、今の僕達にとって特別な事でもなんでもないんじゃ、と。
まあ、僕にとってはご褒美かもしれない、とまで考えた所で僕は化学の教科書を取り出した。
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