第51話 最後の伝説
全ての饅頭を美影に食べさせて貰った後、彼女は空になった饅頭の箱を見て眉尻を下げていた。
「饅頭は……なんで無くなるの……?」
「……まあまあ、今度は僕も買ってくるからさ。元気出して?」
美影の顔は無表情っぽいが、どこか哀愁が含まれているような気がした。多分間違って無いと思う。
なんとか元気付けようと思い美影の頭を撫でようとする。
「ッ!」
「あ、ごめん! 嫌だったよね」
触り心地の良い髪が僕の手に触れた瞬間、美影の体が跳ねた。
無神経過ぎたと反省してすぐに美影の頭から手を離す。
だが僕の予想した反応とは違い、彼女は更に顔に悲壮感を滲ませ、上目遣いで僕を見てきた。
「もう少し撫でてても良い……」
「ッ! じ、じゃあ……」
その顔を見てしまった僕は今の美影に「いや、もう大丈夫」なんて人の心がない言葉なんてかけられるはずがなく。僕はまた美影の頭に手を置いて撫で始める。
サラサラの黒い髪が僕の指の間を通っていき、心地よい感覚が触れている皮膚から伝わってくる。
「ふふ……」
美影の本当に嬉しそうな表情を視界に入れた瞬間に僕の心臓は早く高鳴り始めた。
先程の悲しそうな表情は消え、笑顔が見えたので僕は取り敢えず安堵する。
美影の頭を撫でている間はどちらも口を開かない。気まずくはなく逆に気持ちが安らぐが何か話したいなと思い少し考えて話題を出す。
「あ、そう言えばさっき心君から饅頭を貰ったって言ってたけど仲良くなれそう?」
「氷森心は敵。仲良くなんてなれない」
「そっか〜」
心君には極力死んでほしく無いので仲良くして欲しいのだが……まあ、無理なものは無理なのだろう。
心君にあまり美影達の機嫌を損ねないようにしてくださいとお願いするしかないか、と考える。
他に何か策はあるのかと思案していると、美影が顔を上げて少し上の位置にある僕の顔を見てきた。
「どうしたの?」
僕を映している瞳からは無以外感じられない。だが、その瞳と目を合わせると吸い込まれそうなほどに綺麗だと思った。
今美影が何を考えているのかわからない為僕は首を傾げて彼女に質問をする。
「夕樹は、私と氷森心が仲良くなってほしい?」
そう問いかけてきた美影の瞳から受け取れる感情はやはり無い。
「ま、まあ……もう僕は心君を友達だと思ってるし。美影に人を殺してほしくもないしね」
美影の意図がわからないまま一旦のところ本音を返す。
「そっか。なら努力してみる。でも無理だったとしても責めないでね」
「……いや、そりゃ勿論責めないけど……」
また美影は正面に視線を戻す。不機嫌……なのか? ……全くわからない。
「…………」
「ん? ああ、ごめんごめん」
美影が自らの頭の上に置いてある僕の手を指でつついてきた。多分また撫でろという意味だと思い僕はまたさっきのように手を動かし始める。
そのまま十数分ほど経った時、僕はある事を思い出したので席を立つ。
「ごめん、そう言えば今日は用事があったんだった。帰るね」
と言っても文房具やらを買いに行くだけなのだが、地味に店が遠いので暗くなる前に帰る為今向かっておきたかった。
「……わかった。じゃあね」
「うっ」
しゅんとしてしまった美影に心を痛める。なのでどうにかしようと脳をフル回転させ……
「明日、また僕の部屋で遊ぼう?」
「本当?」
その綺麗な瞳を輝かせ、彼女は視線を僕へと移す。
こんなことで喜んでくれてよかったと思いながら僕は了承の返事をした後、鞄を持ち図書室を出た。
昇降口から外に出て僕は地図アプリを起動する。
「え〜と、店は……こっちかな?」
スマホの画面を時折みながら歩き出す。家とは真反対の方向みたいだ。
地図アプリの指示通りに歩みを進める。会話が無い事に少し寂しさを感じるが周りに人がいる今は1人で話す勇気なんてない。
学校の校門から7か8分くらい歩いたところで信号に捕まってしまい、足を止める。
見慣れない景色に少し胸を踊らせ、視線をあちこちに彷徨わせる。
コンビニ、薬局、飲食店、居酒屋などなど。今の家の近くには無い店が辺りに並んでいる。
名前だけ知っている店、住宅などの他に、右に数メートルほど空けた距離にいたある人の姿が目に留まった。
1メートルと少しはある柵の横に立っている女性。その柵の2倍はありそうな高身長。少し離れている僕が見ても驚くほどに手が長く、細い。服装は麦わら帽子に白いワンピースというこれからの時期にぴったりの、そしてどこかで聞いたことがあるような服装を——
そこで僕はまた特徴を振り返る。何故か呼吸が浅くなっていく。
僕の目測では2メートルは超えている。肌は不気味なほどに色白で麦わら帽子にワンピース……
心臓の鼓動が先程とは確実に違う理由で速くなっていく。全身から嫌な汗が出始め、温かかったはずの体は喫驚するほどの速度で体温が失われていく。
「ぽぽぽぽ」
「ッ!」
……はは、マジですか、これ?
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