第52話 お守りの約束
多分だがあれは八尺様だろう。白いワンピースに麦わら帽子、更にその常軌を逸した高身長。僕が知っている特徴とかなり一致している。
「ぽぽぽぽ」
「……すぅ……はぁ……」
なんとか冷静になるため深呼吸をし、速くなった心臓を落ち着かせる。
落ち着け、僕。あれが八尺様だとしても美影が色々と言ってくれているはず。なら僕に危害が加えられる事は無いと見ていいだろう。ただ素通りして目的を済ませれば良い。
美影に頼りきりなのは情けないかもしれないけど——
「ぽ……ぽぽ」
「ッ!」
僕が目的地に再び向かおうとした時、僕と反対方向に向いていた八尺様の首が180度回転し、近づいて来た。……近づいて来た?!
「待って待って待って!」
「ぽぽぽぽぽぽぽ」
一瞬で恐怖が体中を支配し、元来た方向へ走り出す。
「なにあれなにあれ! 首曲がっちゃ駄目な感じで曲がってたけど?!」
そう叫びながら全力で走る。危害を加えられないとしてもあれは怖過ぎるでしょ!
「はぁ……はぁ……」
膝に手をつき、肩で息をする。もっと逃げなければマズイかもしれないが体力が持たない。
だが結構走ったはず。あの角を曲がった後は体力を回復するために歩こう。
ちょっと余っていた力で数メートル先の曲がり角まで走る。
ここを曲がれば休めると安堵し速度を緩め、右に曲がると、女性がいた。
「ぽぽぽぽ」
「なん、で……うぐっ!」
曲がった先にいた人間——都市伝説の右手が伸びて来て僕の首を掴んできた。
「ぽぽぽぽ」
目も含めた顔の上の方は大きい麦わら帽子で隠れている。だが、隠れていないところを見ても無気力そうな様子で余計に恐怖が煽られ、冷や汗がこめかみを伝う。
「く……苦しっ……」
気味が悪いほど白く細い手で首を絞められ、視界が少しぼやける。
ち、力が強過ぎる……! そんな細い手と平然とした顔のどこにこんな力があるんだよ!
両手で抵抗しているがビクともしない。元々人間の僕が敵うわけ無いとは思っていたがあまりにも希望がなさすぎる。
どうする……脳に酸素が回らなくなってきて思考がままならない……
『みーちゃんに……』
「……え?」
今のは誰の声だ? 脳に直接響いたような感覚が……
僕ではない。美影やひきこさんもここにはいないはず。だとすれば……
『みーちゃんに……近づくな……!』
八尺様から出た膨大な霊力に戦慄する。心君と戦った時の美影が出していた霊力とは比にならないほどの量。やはり例に漏れず化け物だ。
また直接脳に届いた言葉に僕は困惑を隠せない。
何故美影に近づくなと八尺様が言ってくるんだ? 僕が何かしたのか?
「ぽぽぽぽ」
「けほっけほっ……え?」
僕の首を掴んでいた八尺様の右手が離れた。意図が全く読めず僕は自分の首を軽く触る。
「僕を殺すんじゃないの……?」
いや、まずはあそこに……!
僕はまた走り出す。全然体力が戻っていないが背に腹はかえられない。
八尺様は多分追ってこないと思う。いや、危害は加えられたとしても殺されないんじゃないか?
前に八尺様は美影に饅頭をプレゼントしていた。そして自分で言うのもあれかもしれないが美影は僕とある程度の関係は築いている、と思う。なら美影を大切に思っている八尺様(めちゃくちゃに勘)は僕を殺せない、のか? 全くわからん!
まずは走る! 後のことはその時に考える!
「ぽぽぽぽ」
確実に追って来ている。それも先程のように萎縮してしまうほどの霊力を出しながら。だがまた捕まえてこないところを見るに僕の推測は間違えていないと見ていいはず。
僕は後ろを振り返らずに走り続ける。肺が何かで突き刺されたような痛みに襲われて足を止めたくなるが根性で動かす。
左に幽成高校が見えた。けど僕が目指しているのはここじゃない。もう少し先だ。
「ぽぽぽぽ」
「ちょっ! あぶなっ!」
不意に後ろからまた捕まえようとしてきた手を反射的に避ける。普段は頼りない僕の反射神経を褒めて撫でてあげたいところだがこの作品をグロ小説にするつもりは無いので諦めよう。
「もう少し……もう少し……!」
速度がどんどんと落ちているのがわかる。こんな事なら日頃から運動しておけばよかった……!
そこから更に数分走る。もう何度目かわからない八尺様からの手を石に躓きながらなんとか右に避け、いつもの公園へ着いたことに安堵する。
「し、死ぬ……死ぬ……もう走れない……」
「ぽぽぽぽ」
僕は踵を返し、八尺様と相対する。もう逃げれない。いや、逃げない。
「ぽぽぽぽ」
何度目かもわからない八尺様の手が僕に向かって伸びる。
自分の無力さに泣きそうになるが相手が相手だ。目には目を。歯には歯を。なら都市伝説には? そう——
「はっちゃん……ストップ……」
都市伝説を、だ。
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