第二十六話  戦友

「……ぅぐ…がはっ…………!!」


「お? やっと気が付いたか」



 色濃く血の混じった"何か"を吐き出したザイエフに、レイが歩み寄る。



「夢を見ていた……」


「ぶっ! 夢だぁ? 我らが支部長様は剛気なこったぜ」


「もうすこしマシな夢ならよかったんだがな……」


「ケヘヘッ。オレたちにそんなもんを見る日は来ねぇよ」



 ザイエフが自身の脇腹に目をやると、血でぐっしょりと濡れた紙切れが見えた。 

 安物ゆえ効果は限定的だが、意識を取り戻せたのはその紙切れのおかげだ。



「俺に携帯魔法陣は使うなと言ったはずだ……」


「文句は外のやつらに言え。貼ったのはオレじゃねぇ」



 ザイエフがおぼろげな記憶をたどる。


 魔物を順調に討伐していたザイエフたちの前に、未知の魔物が突如現れ、たちまち討伐隊を蹂躙した。

 兵たちを庇いながら、なんとかここまでたどり着くと、兵たちを𠮟りつけ先に脱出させたのだが、その後、未知の魔物を食い止めるため洞窟を崩したのはザイエフだ。


 それ以前に治療をさせた覚えはなかった。



「奴の動きは……?」


「こっちが弱るのを待ってやがる。向こうもそれなりに手傷を負ってるからな」



 いきなりの襲撃にかなりの数がやられたが、それでもザイエフとレイの働きによって"奴"にかなりの痛手を負わせ、それゆえに兵たちを脱出させることができていた。



「…ったく、新兵のガキを庇って死にかけやがって。おめぇが優雅に"ねんね"してる間、こっちは警戒し通しだ」


「俺だけでいいと言ったはずだ……」


「ケッ! 知るか、んなもん。オレは聞いてねぇ」



 レイが、イライラと片手斧を回す。



「…お前まで死んだら誰が仕送りをしてくれる……」


「……気付いてたのかよ」


「こっちのセリフだ……。いつの間に調べた……」


「……オレには身寄りもねぇし、特に金の使い道もねぇしな。どうせなら、と思ってよ。まさか、送り先が孤児院たぁ思わなかったけどな。

……弟たちは、いつだ……?」


「兵学校に入る二年前だ……。俺は…なにもできなかった……」


「……そうかよ。…まぁ、オレも似たようなもんだ」


狼の魔物ベラーレプスか……?」


「あん? …チッ! なんでもお見通しってか?」 


「お前に何があったかは目を見ればわかった……。あとは…お前が特に執着してたのがベラーレプスだったってだけだ……」

 


 レイは、しばらく、うらめしげにザイエフを見ていたが、顔をそむけ大きなため息をついた。



「……まぁ、それに関しちゃ、ちょっとした笑い話もあるんだが……。気に入らねぇから、おめぇには教えてやらねぇ」  

 

「ふ…そうか……」


「だいたい、こんなことを話してるようじゃ、いよいよオレたちも、お終ぇだな」


「そうだな……。……レイ……」


「……あん?」


「いや……なんでもな…っ」


「……っ!」



 二人が、崩れた岩のほうへ視線をやる。

 すぐさま視線のほうへ駆け寄り聞き耳を立てたレイが、苦々しげに舌打ちをした。



「…ガキだ…。何人もいやがる。バーガンのおっさん、こんなとこにガキを寄こしやがって……! 何考えてやがるッ!!」



 すると、洞窟の奥からも何かがうごめく気配がした。



「奴も気付いたな……」


「ああ……! ガキ共の肉は、あいつにとって格好の栄養分だろうよ」



「おーーーいっ。だれかいますかぁーーーっ?」



 その声に吸い寄せられるように、"奴"が活発に動き出した。



「チッ…! ザイエフ…! 動けなくても動け…ッ!!」


「問題ない……!」



「壊します! 離れて下さい!!」



「あぁ!? なに言ってや……うぉぉぉっっ!!!」


 

 "奴"が、一気に距離をつめるのと同時に、巨大な「何か」が崩れた岩を吹き飛ばした。




 後、記 A・C

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