第六十四話 覚醒者
「……どうして……? どうして、みんな……っ」
頭を抱えうずくまったマヘリアの体を、キラキラと不思議な光が包む。
「おい、マー! ……くそっ、どうしたってんだ!」
カティアの魔法によって周囲の魔物は一掃されたものの、足を止めたリィザたちの周辺には依然として数えきれないほどの魔物が残存し、徐々にリィザたちを囲むように動き始めていた。
リィザたちはマヘリアを中心に、三方を警戒しながら構えている。
「なぁ、この光って覚醒者のやつだろ?」
「……あり得ない」
「けどよ、こりゃどう見たって……」
「ブーゲンビリア侯爵家は勇者の血も引いてるから、マーにも当然その血は流れてる。……でも……」
「……でも、何だよ?」
「…マヘリアは獣人。今まで、獣人の覚醒者は一人もいない」
口を閉ざしたリィザの代わりにカティアが答えた。
「覚醒者」が「勇者」として「八つの魔獣」を倒し、「魔王」の封印を維持する。
古くから幾度となく繰り返されてきた王国の歴史。
長い年月を経て、ウィスタリア王家のように魔族や獣人族の間にも「勇者」の血は受け継がれてきたが、人族以外の覚醒者が現れたことは王国の歴史の中でも一度もなかった。
「……そういうことか。けど、この間も『異例なことが多い』から何が起こるかわかんねぇみたいなこと言ってたじゃねぇか。マーのことも、それじゃねぇのか?」
「…たしかに、それはある。でも、覚醒者が現れる間隔の問題と、"これ"とは別物。……もちろん、過去にも同様の事例があったのに、記録から……もしくは存在自体が抹消されたっていう可能性もあるけど……」
「……チッ。精霊教会のやつらなら、やりかねねぇ話だな……。……それにしたって、何でまた急に……」
マヘリアに振り返った後、クロヴィスはマヘリアが立ち止まった時に見ていた方向へと視線を移す。
「マーは何かに気付いてこうなった……何だ……何を見た……?」
見渡す限り、魔物の姿しか見えない。
だが、よく見ると、まだ戦闘もしていないのに血で汚れた魔物の一団がいた。
その中の、一体。
全身に付いた血や肉片に紛れて、かすかに光るものが見えた。
「……あれか。くそが……ッ」
コーロゼンを出る前にマヘリアがマヤから託された御守りの形と同じ、三日月を模した金属製の板。
それに通された紐が返り血にまみれた魔物に引っかかっていた。
「あれは……。……く…っ!」
クロヴィスの視線を追ったリィザも「それ」に気付き、歯を軋ませる。
「……ゥゥウウウウウッッ!!」
「お…おいっ、マー!」
マヘリアの身体を包んでいた光が徐々にその強さを増していた。
「……くそ、こんな時に……。 カティア! マーに気を付けろ!」
「…え? なんでマヘリアに…」
「ァァアアアアアアアアーーー」
クロヴィスの声にカティアが振り返ったと同時に、立ち上がったマヘリアが歌うような声を上げた。
「……リィの時は、まだ子供だったからな……」
「歌声」を上げ続けるマヘリアの大斧がみるみるうちに巨大化する。
纏った強い光に吸い寄せられるように、魔物の群れが襲いかかる瞬間――
「……来るぞっ! 伏せろ!」
衝撃波とともにマヘリアがぐるりと振るった大斧で、一瞬のうちに周囲の魔物が消し飛んだ。
「…何? これ…」
とっさに伏せた三人に、魔物の血や欠片が降り注ぐ。
「覚醒したばかりは、
「リィの時は、うちのお袋やマーが抑えたからなんとかなったけどな。オレもよく吹っ飛ばされたぜ」
「…リィザの時は、まだ小さかったんでしょ?」
「ああ。だから今回は、かなりマズイ」
再び「歌声」を上げたマヘリアが魔物の群れへと飛び込む。
巨大化した大斧が目にも止まらぬ速さで振るわれていることもあって、まるでただ歌いながら踊っているようにも見える。
マヘリアが通るたびに飛び散る血しぶきや欠片だけが、異様さを放っていた。
「リィ、カティア、行け!」
起き上がったリィザたち三人は、しばらくその様子をただ眺めるしかなかったが、マヘリアを目で追いながらクロヴィスが声を上げた。
「マーを、このままにして行けるわけないでしょ!」
「わかんだろ。時間が
歯を軋ませクロヴィスを睨むリィザだったが、きつく目をつむり、背を向けた。
「……マーのこと、ちゃんと守ってよ?」
「『命に代えても』ってやつだっ。……けど、"なるはや"で頼むぜ?」
「……わかってる。……カティア、ついて来て。急ぐよ……!」
「……さて、と。男の見せどころ……ってな」
リィザたちを見送った後、再び「歌い踊る」マヘリアへと視線を戻したクロヴィスは、震えをかき消すように強く、双剣の柄を握った。
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