第六十五話  コーロゼン外周壁上

「ぐ…っ! は、離せ! この……! う…うわぁぁぁぁ……っ!!」



 魔物にしがみつかれた兵が、魔物共々城壁から落ちていった。

 落ちた先で、魔物が一斉に群がる。



「ひっ! ひぃぃぃっ!」


「怯むなッ! 一か所でも抜かれれば終わりだぞ! 持ち堪えるんだ!」



 城壁をよじ登ってきた魔物を切り伏せ蹴り落した後、たじろぐ志願兵にランスが叱咤の声を上げる。




 コーロゼンでは、すでに魔物の群れとの戦闘が激化していた。


 ベッカ・チェスナットの魔法具を使用したカティアの策によって、迫る魔物の数を大幅に削ることに成功したが、それでも、圧倒的な数の差はコーロゼンの守備隊をゆっくりと追いつめていく。

 すでに城壁の上まで到達される場所もあらわれ始めていた。



「ランスさんっ!」


「テオ、どうだった?」


「包囲こそされていますが、魔物の群れはやはり北門に集中しているようです。成功ですねっ」


「ああ。これでリィザたちが強襲をかければ、魔獣の意識はさらにこちらから離れるはずだ」



 大群からの切り離しによって指揮能力を下げると同時に、リィザたち別働班に狙いをつけやすくする。

 自らは戦わず常に安全な場に身を置こうとする、魔獣バーストゥオルの性質を利用したカティアの策は、ひとまず順調に事が進んでいた。



「……ですが、魔物の攻勢は想像以上ですね……。外周壁の放棄も考えておかないと……」


「ああ。北門以外の隊を内城うちじろに退かせた後で、ここも下がらせる。……だが、今はダメだ。リィザたちが魔獣の注意を引かないことには、撤退する間に大きな犠牲が出る」


「……そうですね。……あれは……? ランスさんっ!」



 テオが杖で指し示した先に、強い光が見える。

 

 コーロゼンを襲う魔物の大群からはすこし離れた、別の群れの中にある光が、魔物を跳ね上げながら動き回っていた。



「リィザさんが、魔獣の潜伏している群れに切り込んだようですね!」


「……いや……リィザのものとは、すこし違う……。何だ? あれは……」


「ですが、あの光は覚醒者の力のものでは……? リィザさん以外でな…………ひゅ…ぅ……」



 ランスが、言葉を途切れさせたテオを振り返ると、下方から胸のあたりを槍で貫かれたテオの姿があった。



「…………テオッ!!」


「……う…っ…………ごぶ……っ」



 崩れ落ちるように倒れ込んだテオが、ゴボリと吐血する。

 時折、身体を痙攣させながら細かい血の泡を吹いていた。



「投擲ッ!? 上位種ならともかく、通常の魔物が……!」



 古くから、上位種の大型魔物が投擲による攻撃を行うことは知られていた。

 だが、通常の魔物は単調な攻撃をするのみであり、上位種の魔物がいる場合であっても、組織的な動きを見せるのみで、個々の攻撃手段は通常のものを逸脱するものではなかった。



「これが、バーストゥオルの能力ちからか……! くそっ、死ぬなよテオっ!」



 すぐさまテオに"癒し"の携帯魔法陣を貼り付け、近くの兵四人がかりで運ばせた。



「テオ……。くっ……急いでくれ、みんな……!」



 救護所も兼ねた内城にはコーロゼン附きの神官も待機しているが、皆、テオほどの力を持ったものはいない。


 このままでは、いずれ……。

 各方面へ内城への撤退の準備にかかるよう使いの兵を走らせた後、再び城壁の上へとよじ登ってきた魔物へ剣を振るい続けるランスの顔に、焦燥の色が滲み始めていた。




 記 A・C 


 

 



 

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