東部地域

遠雷

第二十話   帯魔剣と赤い石

「ところで、僕たちこれからどこへ向かうんですか?」


「まだ話してなかったわね。あたしたちはこれから要塞都市ブーゲンビリアに行くの」



 要塞都市ブーゲンビリアは侯爵家ブーゲンビリアが代々治める都市で、兵団本部を置き、東部における各兵団支部を統括する軍事上の重要拠点でもあった。



「たしか…あの地域では魔物の数が増えているらしいですね」


「そう。魔獣の出現が報告されていない以上、まずは、東部の魔物討伐を手伝えってことらしいわ。

……なにー? マー」


「えっ…? …えへへ、なんでもないよっ」



 テオと話す時の、リィザの落ち着いた話し方がうれしく、マヘリアは耳をパタつかせご機嫌な様子だ。

 


「ついでに調査も、だろ。今、東部地域は調査に人をまわしてる余裕はねぇだろうからなぁ」


「……邪魔っ」


「へッ」



 今にもマヘリアに飛びつきそうなリィザのいたずらっぽい視線を遮るようにクロヴィスが割って入り、睨みつけるリィザに挑戦的な笑みを向けた。



「そんな所に僕たちが……。なんだか不安になってきました……」


「確かにあたしたちも、強力個体向けの訓練が多かったからね。魔物との集団戦闘とかって、あんまり経験ない」


「俺たちのようなよそ者が急に戦列に加わっても連携を乱すだけさ。おそらくまわされる仕事は、せいぜい援護か、兵団の代わりに別行動で調査をする、ぐらいなものじゃないかな」


「……そ、そうなんですね」


「そんなに心配すんなって。勇者御一行様だぜ? そりゃあ、何百って魔物に来られちゃ困っちまうけどなっ」


「そうだよっ。私たちってけっこう強いんだからっ」


「…さっそく来たみたい」


「えぇぇっ!?」



 カティアが杖で指した先に、魔物の群れが見える。

 すでにこちらに気付いたのか、向きを変え無機質な歩みでこちらに向かってきていた。


 槍を携えた骨の魔物。

 単体はもちろん、群れであっても訓練を積んだ者にとってあまり脅威ではないが、騎士型の骨の魔物に指揮された群れは、練度の高い兵団の戦隊に相当する。



「スケルランケアが……十二体、か。じゃあ、いっちょテオにオレの実力を見せてやるかっ」


「手伝う? クロ」


「んにゃ、スケルエクエスもいないみたいだしな。こいつの慣らしもやっておきたい」



 クロヴィスが、腰の双剣の柄を拳で叩く。

 


「手出しは無用で頼むぜ? カティア、半分倒したあたりで魔法頼めるか?」


「…わかった」



 ニッと笑ったクロヴィスが、踵を返し魔物の群れへと駆け出した。


 骨の魔物は、槍を水平に又は振りかぶり向かってくる者、その場に止まり槍を構える者、各々で動き、統制はとれていない。

 


 魔物が振り下ろした槍を体を回しながらかわしつつ、クロヴィスが右手で剣を抜き首を刎ねる。

 繰り出された別の槍を左手の剣で引き抜きざま払うと、すかさず右手の剣で肩口から袈裟懸けに切りつけ、さらに背後から狙う槍を二本の剣で受けながら身体すれすれに穂先からすべらせ、回転しながら二本の剣で横に払う。

 魔物は砕かれた骨をまき散らしながら崩れ落ちた。



「す…すごいですね! クロヴィスさん!」


「ああ。俺は見るのは初めてだが、さすがは"ミネルヴァの梟"だな。…そろそろか」



 テオが興奮した様子で声を上げる間も、流れるような太刀筋で魔物を屠っていく。

 ランスが横を見ると、カティアが詠唱を終えようとしていた。



「……せし、炎の化身。

我、カティア・レッダの名において"約束"を交わす。

さかれ。闇夜焦がす天の燈。…【光焔】フラニス



 カティアが突き出した杖の先に赤い魔法陣が現れると、タイミングを見計らったようにクロヴィスが双剣を掲げた。

  


「ははっ、こりゃいいや。チェスナットさんのより馴染みがいいぜ」



 魔法を宿した双剣は、刀身が赤みを帯び、ところどころから炎が揺らぎ出ている。

 


「こいつも試しておくか」



 クロヴィスは柄頭を合わせ捻ると、一体となった双剣を縦横無尽に操り、残る魔物の間を舞うように駆け抜ける。

 クロヴィスの通り過ぎた後では、魔物が次々と燃え盛り焼き崩れていった。



「いっちょ上がりだな」



「すごい、クロ! かっこよかったよ!」


「お、おう……へへ…やっぱそうかな」


「調子に乗んな」


「リィ、いくら自分だけ何も作ってもらえなかったからって、やっかみはよくねぇええなっはぁああっ…!!」


「調子に乗んな」


「……ぐっ…つぅ~~っ…。ちょっとぐらい調子に乗らせてくれたっていいだろがっ」


 



「ねぇねぇ、前から気になってたんだけど、魔物を倒した後にたまに落ちてるこの赤い石ってなんなのかな?」


 

 骨の魔物が倒された後に、キラキラと輝く赤い石が三つほど落ちている。

 マヘリアが物知りなカティアを見るが、カティアは「さぁ?」といった様子で首をかしげた。



「なんなのかは知りませんけど、北部の港町に赤い石を集めているおじいさんがいるらしいですよ? 地域の子供たちが、お小遣い稼ぎに討伐跡を拾って歩いていました」


「こんなのをわざわざ買い取って集めてんのか? イカれたジィさんだな」

 


 そう言いながらも、赤い石をせっせと拾うクロヴィスを横目に、



「これから先はもっと魔物が多くなるかも。すこしやっかいね」


「全部クロにやってもらう?」


「賛成ー」

「楽でいいな」

「…わたしは休みでいい?」

「えっ…あ…いいんですかっ?」


「いいわけねぇだろっ! マーも、ひでぇよ」



 めずらしくいじわるな物言いをしたマヘリアに、クロヴィスが食ってかかると、一同から笑いが漏れた。



  

  

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