第八話 黒いローブの男
「……あれが、半分以下の力だって言うのか!? 態勢を立て直せ! すぐに熱光線がくるぞ!!」
ランスが叫ぶと、振り向いた魔獣の"すぼんだ口"が光をたたえながら徐々に広がり始めていた。
ランスが防御魔法を展開しようとすると、魔獣の顔付近で爆発が起こった。
魔獣はのけ反り、口からは光が消えている。
「カティアっ!?」
「…時間稼ぎにしかならない。今のうちに立て直して」
その間にも、リィザが駆け出していた。そのすこし後をマヘリアが追う。
リィザは剣を抜き、右に大きく膨らむように回り込んだ。
「(リィリィは、上から? じゃあ私は……っ!)」
マヘリアは大斧を構え、魔獣に正面から向かっていく。
大斧を右に大きく振りかぶった時、リィザが、突き出された魔獣の腕を踏み台に宙に飛び上がった。
両腕を広げ、身体をまっすぐ伸ばしたまま宙で回ると、金色の髪が美しく煌めいて見えた。
(…………リィリィ、綺麗…………)
「…………わぁっ!!!」
一瞬見とれていると、魔獣の拳が迫っていた。
まるで、巨木の丸太が飛んできたかのような「それ」を飛び上がりかわすとともに、振りかぶっていた大斧を短く持ち直し魔獣の胸に切りつける。
すでに魔獣の肩の上に乗っていたリィザが、魔獣の肩口に突き立てた剣を薙ぎ払うように引き抜き、次の一撃をあびせようとしていた。
マヘリアは柄を持つ手に力を込め、自身の身体を持ち上げるようにして回転すると、魔獣の肩に差しかかったあたりで柄を持つ手を石突き近くまで滑らせた。
遠心力で引き抜かれた大斧が魔獣の胸をえぐる。
「(ぁあぶなかったぁ…………)」
着地したマヘリアはそのまま身体を滑るように回し、振り向きざまに魔獣の足に切りつけた。
「軽騎士は負傷者を下がらせろ! 重騎士は前に出て直掩! 魔導士は詠唱を開始! あの二人なら、そうそう当たりはしない! こちらの態勢が整うまでは撃ちまくれ!!」
「ちょっと! せめて発動のタイミングぐらいは合わせて撃ってよねっ!?」
ランスに非難の声を上げながら、リィザは、魔獣の肩や頭を縦横無尽に駆け回りながら切りつけている。
「私は背中側だから、なんとかなるかも」
「…………代わって」
「ぇええぇぇっ……!? やだよぉ。私あんまり身軽じゃないし」
マヘリアも、舞うように大斧を振るい、魔獣の脚を落としにかかっていた。
「私の出番は、もう、なさそうだな。ベッカ」
監督台の上では、いつの間にか、ベッカのとなりに黒いローブの男が立っていた。
フードを目深にかぶり、その表情を見て取ることはできないが、その声色からは知性と品性が感じ取られる。
「あんたが必要になるのはこれからさ」
「そもそも、なぜ、あんな嘘を。あれは完全体だろう? それゆえ私が、このような憂き目にあっているのだからな」
「なにが憂き目だ。どのみち見に来てたんだ、役に立っていけ。…なぁに、完全体なんぞと言ったら、あのガキ共は、縮みあがってしまうだろうからな。それでは、たとえあんたの力を借りても、何人かが死ぬ。私の役目は、あのガキ共をこれから送られる配属先で、すこしでも長く生きられるように育てることだ。死なせることじゃない」
「ならば、なぜ弱く造らなかった? できなかったわけではないだろう?」
「私たちの時は、エミリアのみで片がついた。覚醒者は特別だ。まして今回は、あの時より好条件だ。あの力を使わずとも、この条件下ならばあの程度の魔獣は造作もない。あまり難易度を下げ過ぎるわけにもいかんのでな」
「わからんな。そうまでしてすることとも思えんが」
「まぁ見ていろ。仕事はしっかりしろよ? 王国としても未来ある騎士候補生を失うわけにはいかないだろう?」
「ふっ。私を誰だと思っている」
「……ききたいか?」
「……………………」
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