第九話    スポッター〔非詠唱空間発動魔法使い〕

 負傷者の後送も無事終わり、候補生たちは態勢を立て直しつつあった。



 魔獣の周りでは、相変わらずリィザとマヘリアの奮闘が続いている。

 魔獣は、まるで蜂に集られた熊のように激しく身をよじりながら暴れていた。



「いけるぞッ! ここからは確実に攻める!

魔導士は、【氷枷】フムサグラ―ディオを! 右足だ! 動きを止める!

重・軽騎士は前へ! 固まりすぎるなよっ!!」



 魔獣の最初の突進以降、即席ではあるものの、ランスの指揮によって候補生たちは大した混乱もなく動けていた。



 魔導士たちの一斉の魔法により魔獣の足がその下の地面ごと凍りつくと、すかさずマヘリアが切りかかる。


 たくましい大男ですら、一振りするごとに体勢を崩しそうな大斧で、まるで木の枝でも振るうかのように鮮やかな連撃を加えると、魔獣はたまらず片膝をつきバランスを崩した。



「今だッ! たたみかけるぞッ!!」



 ランスの声に、候補生たちの意気が揚がる。

 魔獣は体を丸め、防御体勢のようなかたちをとっている。

 前衛の候補生たちが殺到しようとした時、



 ゥオォォォォォォォ…………ン



 魔獣から不思議な音がしたと思ったのもつかの間、顔を上げた魔獣を見た候補生たちは一瞬で青ざめた。



「……なっっ!? (くそっ……間に合えッ)」



 爆発的な光とともに、拡散された熱光線が放たれる。



「……ちょっ! なにこれ…………っ!!」


「わわわわわわわわっっっ!!!!」



 魔獣の至近にいたにもかかわらず、リィザとマヘリアはかろうじてかわしたが、魔獣に殺到しようとしていた他の候補生たちは、熱光線を受け吹き飛ばされた。



「(くそっ……!!とっさに【光の盾】スクトゥムは、

かけはしたが、カバーし切れなかった……!)

……みんな無事かッ!? …………なんだ……?」


 ランスが吹き飛ばされた候補生たちを振り返ると、みな倒れ、ほとんどが気を失ってはいるものの、重傷らしき者は見受けられなかった。



「(…………どうゆうことだ? 勢いは殺しきれていなかったはずだ…………)」



 ゥオォォォォォォ…………ン



「くそっ! またかっ!! …………だが、今度はッ!!」



 ランスは意識を集中させた。

 自分を含め、この場のすべての候補生たちの位置を感覚で思い浮かべる。



【光の盾・三連】スリサスクトゥム!!………………ぐっっ……!」



 熱光線の激しい衝撃はあったものの、展開した防御魔法によって負傷はしていない。

 他の者も同様のようだった。



「(…………おかしい。今のでも感覚的には足りていなかった。

どうなってる……だめだ、頭が回らない…………またかッ……!?)」



 ゥオォォォォォォ…………ン



「……く…………っ。

(…たしかにランスの【光の盾】スクトゥムは効いてる。

でも……ランスのだけじゃない……。

タイミングだって、たぶんインパクトの瞬間に合わせてる。

これほど高度なスポット魔法〔非詠唱空間発動魔法〕を

使える人は候補生にはいない。

師匠だって、スポッターじゃないし。…………だれ?いつの間に……)」



 熱光線の衝撃に耐えた後、カティアは監督台のローブの男に目を止めた。






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