第四十一話  プニニの「オハナサン」

「ふぅん、それで明日は、その神殿とやらに行くんだな?」


「そう。他に情報もないしね」


「……ま、警戒は怠らずにってやつだな」



 温泉から上がり合流した一行は、明日の予定を話していたが、リィザの様子から何かを察したのか、クロヴィスはいつもの調子ながらも真剣な視線をリィザに向けていた。



「テオ君は、ネリダさんって人、知ってる?」


「いえ、お名前も聞いたことはないですね」


「そうなの?」


「ええ。僕たち神官は、それこそ小さな村から大都市まで、王国各地に散っていますし、町の規模によっても人数が違います。そのほかにも、調査で旅をしながら、という人もいますし、名前も顔も知らない方のほうが多いですよ」


「そっかぁ」


「マーは、ずいぶん気に入ったんだな」


「おねぇさん、だったんだよねぇ」


「…いろいろ"おねぇさん"だった」


「なんだそりゃ」


「…マヘリアのより大きかった」


「…………なに……っ?」


「………………」



 マヘリアには聞こえない大きさで、ぼそりとつぶやいたカティアの言葉に、持ち前の反射神経で思わず口から漏れ出てしまったクロヴィスだったが、リィザが「所詮、その程度」と侮蔑と勝利の笑みを口元に浮かべると、クロヴィスは哀れなほど狼狽した様子で腕を振った。



「ちっ、違ぇよっ! "誰のか"が重要なんであって、大きさとか、そんなもん、オレはどうだって……っ!」


「クロヴィスさん……」


「おいっ、手を添えるんじゃねぇ!」


「どうしたの? クロ」


「な…っ、なんでもねぇって……っ!!」



 リィザに加えランスやカティアの"悪い笑み"にさらされながら、腕にそっと添えられたテオの手を振りほどいた哀れなクロヴィスが上げた声に、他の湯治客が数人、ただ振り向いて見ていた。






 翌日、コンアイの守衛に神殿の詳しい位置を聞いた一行は、神殿につながる森の中を進んでいた。



「魔物が増えてるというわりに、まったく出会わないな……」


「そうですね。さすがに神殿に近いこの森に入れば、それなりの数が出てくると思っていたんですが……」



 ランスたちが言うように、一行がコンアイから出て森に入ってからも、いまだ一体の魔物との遭遇もない。



「かなりでかい森だからなぁ。まだ油断はできねぇまでも、数がいりゃあ気配で気付くしな」


「うん。それっぽいのは全然ないね」


 

 次第に、めずらしいキノコをながめたり、木の実を採って食べたりと、のんびりと森の中を進んでいた一行だったが、途中、二股に分かれた道にさしかかった時、マヘリアとクロヴィスが足を止めた。



「なんだろう……これ」


「……魔物……だよなぁ」


「どうしたの?」



 マヘリアとクロヴィスが、しきりに耳を動かしたり、鼻をひくつかせたりしているが、どうも要領を得ないという様子で道の先を見ている。



「う、うん。なんかね、この先に何かいるんだけど……」


「けっこうな数だ。動物じゃねぇ。……けど……魔物……みてぇだけど、魔物じゃねぇような……」


「盗賊の類でしょうか?」


「ううん。人じゃないよ」


「……とりあえず、行ってみる他なさそうね」



 気乗りしない様子のマヘリアの手を引くリィザを先頭に、一行が奇妙な気配のするほうへと進むと、開けた場所に出た。



「……村?」



 森がぽっかりと抜けたようなその場所には、大きな木に扉が取り付けられた家のようなものや、石を積み上げて造った苔むした家が並んでおり、柵の中には植物が植わっているなど、日の差し込む、のどかで小さな村のような様相であった。



「……なんでしょう、ここ。だれも、いないんでしょうか?」


「……いる。油断すんな」


「え?」


「さっきまで、外に出て動いてやがったんだ」


「うん。私たちが来たのに気付いて家の中に……」


「どうする? 下手に近づいて囲まれでもしたら厄介だ」



 一行が動けずにいると、"村"の奥から、「大きな丸いもの」がぴょんぴょんと飛び跳ねながら、こちらに向かってくるのが見えた。



「……プニニ?」


「でけぇ。あんなの見たことねぇぞ」



 やがて一行の前までたどり着くと、すこし疲れたのか、下を向き息を整えるように丸い体を上下させると、つぶらな瞳で一行を見上げて言った。



「私の村へようこそ。私がこの村の村長、オハナサンよ」




 記 D・L  A・E


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