第四話 まんまる焼きとプニニモドキ
騎士候補生学校に着いた二人は、あらかじめ最終試験の会場として通達のあった演習場へと向かった。
すでに多くの候補生たちが集まっていて、談笑する者、装備を確認する者、様々であったが、張り詰めた空気感はなく、いつもの演習前の様子そのものだった。
「みんなもう集まってるね。あぶなかったぁ」
「結局、マーを人形劇から引き離すのに時間かかっちゃったからねぇ」
「そ、そんなに時間は、かかってないでしょっ」
「あ、時間かかったのは、まんまる焼きの屋台だったっけ」
「ぁああれはさぁ、ちょうど歩いてちょっとだけお腹すいたなぁとか思って、リィリィも、お腹すかせてないかなぁとか考えてたところに、 たまたま、屋台のおじさんが見事な手さばきで焼いてるのが見えて、たまたま、ついつい見とれちゃって、あ、あんな風に焼くんだーとか、いい匂いだなぁとか、なるほどーとか、ただ、たまたまなんとなーく見てたってだけの話で、別になんてことない話だよ。
勉強にはなったけど」
マヘリアは早口で、まくしたてた。
「 (……何て?)。 ……で? そのお勉強の果てに、今、マーのお腹の中には何個まんまる焼きが入ってるの?」
「えっ……。………………さ、さぁ?」
耳を倒し、左腕の肘のあたりを掴むようにして右腕でお腹を隠しながら、横を向く。
顔の向きはそのままに視線だけリィザに向けると、リィザはゆっくりとマヘリアの腰に手を回し、マヘリアの顔を見上げた。
「朝ごはん食べたばっかりなのに、このポンポンお腹にいくつまんまる焼きが入ってるのぉ?」
ゆっくりと、まるで小さな子に語りかけるような口調でリィザが訊ねる。
「…………………………ふたつ」
「……二つぅ? ……ほんとぉ?」
「…………………………みっつ」
マヘリアは、すこし涙目になりながら顔を赤く染めた。
「三つも食べちゃったの?」
「…………………………食べちゃった」
「どうしてそんなに食べちゃったの? もうお腹すいちゃったの?」
「……うぅ~~~~っっ。もぉやだぁぁっっっ」
「あははははははっっっ!!」
「……もぉ~。…………あ、カティアとランスだよ。おーい」
マヘリアが呼びかけた先には、魔族の少女と、人族の少年がこちらを向いて立っていた。
「…マヘリア、演習前にまんまる焼き食べてきたの?」
カティアと呼ばれた少女が、いつもの淡々とした口調ですこしいたずらっぽく言った。
角に尻尾、透き通るような白い肌という典型的な魔族の容姿で、背丈はリィザとさほど変わらないほどだが、憂いを帯びたような目元と口元のほくろ、落ち着いた雰囲気で、どこか大人びた印象を受ける。
「ねぇぇっ。カティアまで、やめてよぉ」
「…ふっ」
「ところで、ランスがまた、プニニモドキみたいな顔になってるんだけど」
リィザが指さした先には、気の抜けた情けない、それでいてとても幸せそうな顔があった。
すこし長めの金色の髪、背丈は高く、大柄ではないがよく鍛えられた体躯をしている。
こんな顔をしていなければ、いかにも美丈夫といったところだ。
「…なんでもない。気にしないで」
カティアが、ランスを一瞥し呆れた様子で言い放つ。
ランスとカティアは、すこし前からリィザとマヘリアのやり取りを見ていたのだが、リィザとマヘリアの「仲の良い様子」が大好物なランスは、限界を迎えプニニモドキと化したのだった。
「このプニニモドキ、完全装備だけど、今日の試験ってそんなに大変なの?」
「俺もくわしいことはわからないが、カティアの話によればそうらしい」
「あ、戻った」
鮮やかなまでに自然に正気を取り戻したランスは、兜は外しているものの、重騎士の完全装備姿だ。
「チェスナット先生は、カティアの魔法の先生だもんね。なにか聞いてる?」
「…わからない。師匠は、そういうの教えてくれないから。でも、あの人のことだから、とんでもないことを考えてるのは間違いないと思う」
「そこは、おば様の言ったとおりかぁ」
と、演習場奥の建物の二階のドアが開き、バルコニー状の監督台に黒いローブ姿の女性が現れた。
「ガキ共!! 最終試験を始めるぞ!!!」
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