第十一話 私の戦う理由
「……ごめんなさい……義父上様、義母上様……。……ごめんなさい…………」
私の一番古い記憶。
もともと獣人族は他種族に比べて、発達が早い。
加えて、父様に似て小さいころから力の強かった私は、よく物を壊した。
壊さないように注意していても、うまくできなくて……うまくできない自分がくやしくて…………義父上様や義母上様を困らせてしまっているような気がして……。
「いいの。だいじょうぶ、マヘリア。だから、泣かないで? ケガはなかった?」
そう言うと、義母上様は私をお膝の上に乗せて、やさしく頭をなででくれた。
「はははっ。マヘリアは本当に力持ちだなぁ」
「マヘリアは女の子なんだから、そういう言い方しないで」
「……えっ? そうか。すまない、マヘリア。さぁ、義父上のところにもおいで」
「…………ダメ」
「なぜっ……!? いいじゃないかっ!」
幼いながらも二人のやりとりがすこしおかしくて、そしてすこしほっとして……私は笑った。
義父上様は、よく私をお外に連れ出してくれた。
大きな像を指さして、
「見てごらん、マヘリア。立派だろう」
「ケンケン?」
「はははっ。ケンケンじゃないよ、マヘリア。狼っていうんだ」
「……オーカミ?」
「そう、"勇猛なる森の狩人"さ」
「かっこいい!」
「そうかっ! マヘリアも、かっこいいと思うかっ! ははははっ」
義父上様は、とてもうれしそうに笑った。
「いいかい、マヘリア。こっちがマヘリアの父様。となりに立っているのが母様だ」
「父様と母様?」
「ああ。私とエミリアが義父上・義母上だけど、この二人も、マヘリアの父様・母様なんだ。……本当は、アリシアの名前も記したかったんだけどな……」
「?」
「ははっ。今はわからなくていいんだ。でも、覚えていてほしい。私とエミリア、シルグレとアリシア。マヘリアはたくさんの人に愛されているんだ」
「うんっ」
小さいころの私には、義父上様の言葉はよくわからなかったけど、それでも、なんだかすごくうれしい気持ちになったことだけは覚えてる。
しばらくして、リィリィが生まれた。
すごく小さくて、かわいくて、いい匂いがした。
私が抱っこすると、決まってリィリィは私の服をぎゅっと掴んで…、その小さな手の、ほんのわずかな、だけど力強い感触が愛おしくて……。
私はいつもリィリィのそばを離れなかった。
ある時、義父上様がいなくなった。
義母上様も、眠ったままになった。
大人の人たちが、慌てたり、心配したり、なにか難しそうな顔で話してたけど、私は何も考えないようにしていた。
なぜかは、わからないけど。
ただ、リィリィのそばを離れなかった。
メリッサおば様が来てくれるようになって、リィリィがすこし大きくなったころ、「勇者の力」が覚醒した。
小さいリィリィは、力をうまく制御できなくて、でも私がいると落ち着いてくれた。
私の腕の中で眠るリィリィの頭をなでながら、私と同じだって思った。
でも、私には義父上様と義母上様がいてくれた……。
だから私が、かつて私がしてもらったように、この子にしてあげなきゃ。
ずっとずっと昔から、覚醒者が現れると勇者として旅に出ることになっている。
旅に出て、魔獣を倒し、魔王の復活を阻止する。
義母上様も、そうだったように。
でもリィリィはあまりに幼かったから、これまでは特別に見送られてきた。それも、騎士候補生学校を出れば変わる。
勇者の同行者は、王国の偉い人たちが決めるって聞いたけど、きっと、リィリィは私を連れて行くって言ってくれる。
……でも、だからこそ、私はリィリィのそばにいるのに相応しくなきゃいけない。
リィリィのことを「"そばにいれば落ち着くから"なんて理由で、足手まといを連れるような子供」だなんて、絶対、だれにも思われたくない……。
リィリィは、
だれよりも強くて……やさしくて……かわいくて……私の大切な………………。
―― …………だから…………!!!! ――
激昂したリィザが今にも魔獣に飛びかかろうとした時、マヘリアが、すさまじい速さで魔獣めがけ突進した。
構えた大斧が、みるみるうちに巨大化する。
飛び上がりながら振りかぶったころには、元の数倍の大きさになっていた。
「ぁぁあああああああああ…………ッッッッ!!!!!!!」
マヘリアが魔獣の頭をめがけ「大斧」を振り下ろすと、聞いたこともない音とともに魔獣の体が真っ二つに "裂け"る 。
瞬間、轟音が響き、魔獣のいたあたり一帯は砂埃で何も見えなくなっていった。
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