第十二話 大外刈り
「なかなか面白い物を作ったものだな」
「だろう? ガスパルドは相当文句を言っていたがな。無理矢理作らせた」
「ふっ。ずいぶん甘いものだな」
「あいつはアリシアの娘だ。これくらいは、してやるさ」
監督台の上で話していたベッカとローブの男が、演習場へと視線を落とす。
いまだ砂埃が舞っている中、マヘリアが姿を現した。
大斧は元の大きさに戻っている。
「……こほっ…けほっ…………う~~~っ……ぺっ、ぺっ……」
両腕を折りすこし体を丸めると、ブルブルと頭と尻尾を震わせた。盛大に砂が飛ぶ。
その背後には真っ二つになった魔獣が転がっており、断ち切られた断面は火であぶられているかのような音を立てていた。
「マーっ!!!」
リィザがマヘリアに飛びつく。
「だいじょうぶなの? ケガは? 痛いところはない?」
「うん、一瞬息できなかったけど、なんかだいじょうぶみたい。
よくわかんないけど」
「…………心配した」
顔をうずめ、ゆっくりと抱きしめるリィザに応えるように、マヘリアもリィザを愛おしげに抱きしめた。
「…………うん……ごめんね、リィリィ。でも、私は全然だいじょうぶだから。だからもう心配しないで? ………………。……あ……もしかして…………リィリィ……? ……うそ……やだ、ちょっと、ダメだって……。私、汗かいちゃってるからっ…………! …………ねぇってば……!
……やだぁっ……くっ……このっ……!」
顔をうずめたままぴったりとしがみつくリィザに、マヘリアは投げを打とうとするが、しがみついたまま見事な体裁きを見せたリィザにはまったく通用しなかった。
「……………………」
「…ランス、顔」
「…………俺の
「……急にやめてよ。確かに、ランスのが破られるタイミングで、別のが展開されてた。たぶん師匠のとなりにいる、あの…………いない。どこ?」
ローブの男はすでに姿を消し、かわりにベッカが演習場へと降りてきていた。
「ランスロット、伝言だ。『着眼点は、いい。センスもある。だが、魔力切れを恐れるあまり、魔法が"手打ち"になっている。魔力を底上げしてもっと腰を入れろ』だとさ」
「……え? あ、はい。…………腰?」
「カティア、相変わらず詠唱が遅い。それから、ああいう場面ではもっと声を張れ。対人戦じゃないんだ。詠唱の文言は指揮を執る者にとって、タイミングを計る上で重要な情報になる。状況に柔軟・迅速に対応しろ。
それ以外は良かった。励めよ」
カティアの頭をそっとなでると、ベッカは早々と二人の横を通り過ぎた。
「それ、どうゆう表情なんだ?」
「…………うるさい」
ランスがからかうように言うと、カティアは頬を膨らませてうつむいた。
「マヘリア、"そいつ"はうまく機能したみたいだな」
「あ、先生っ。はいっ、ありがとうございました!」
「それ、小さくなるのは知ってたけど、大きくもなるんだね」
リィザが、顔を出して言う。まだマヘリアにしがみついたままだ。
「そいつは、持ち主の魔力を吸って大きさを変えるんだ。マヘリアは、馬鹿力な上に魔法が使えないが、アリシア譲りで無駄に魔力が高いからな。うってつけの武器ってわけさ」
「……う~~~……っ。先生ぇ…………」
「ハハハハハッッ!!! 大事に使え。クロヴィスにも別のをくれてやったんだが、あいつときたら、礼のひとつもありゃしない」
「クロ?」
「どうして、あいつに?」
「あん? …あぁ、いや、そのうちわかる。よぉし、ガキ共!! これで最終試験は終わりだ! さっさと帰って、メシ食って寝な! 明日から、お前たちも騎士様だ!!」
そう言い放つと、ベッカはさっさと演習場を出て行った。
「なんだったんだろ? さっきの」
「さぁ?」
「リィリィ、そろそろ離れて?」
「やだ」
「……………………」
再び攻防を繰り広げる二人をよそに、負傷した候補生たちの搬出が着々と行われていた。
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