第十五話 姫騎士の勇者
「……ず…ずいぶん、あっさり終わったな……」
「…うん」
ランスが呆気にとられたようにカティアに小声で話しかける。
「陛下なりに、お気を遣われたのだろう。拍子抜けで、すまぬな」
「いっ……いえっ……!……そのようなっ…………!!」
まさか聞かれていたとは思わなかったランスは、恐縮しきりという様子で直立した。
「ふっ。せっかくの陛下の仰せだ。楽にしろ」
「そうだぞ! 勇者一行の一員となるのだ! そんな肝の小さいことでどうする!
ドーン、としていろ! ドーン、とだ!」
「……ごふっ…! …は……はぁ…………」
カイルにドーンと背中を叩かれ、肩を抱かれて揺さぶられ、すっかり目を丸くしているランスの様子に一同から笑いが起きた。
「しかし、これで全員なのですか? どういう旅になるかわからない以上、神官がいないのは少々……」
「お前の心配ももっともだ、クロヴィス。それに関しては、実は精霊教会が横槍を入れてきてな」
ヴァレリオが苦々しげに言うと、カイルも腕を組み「ふんっ」と不機嫌そうに鼻をならした。
「面子にこだわる連中だ、前回あちらからは一人も出さなかったことを根に持っているのだろう。『隻眼』一行は、"救国の英雄"と王国全土で、もてはやされているからな」
「……神官は精霊教会の所属です。ですが、当然ここ王都にも大勢います。それが今、同行の顔ぶれにいないということは……」
「
「…………なるほど……反吐が出ますね」
精霊教会は王都より南の土地に教会都市を設け、王国全土に教会所属の神官を派遣しているが、独自に騎士団を有し、さながら独立国家の様相を呈している。
「あんなヤツらほっとけばいいんだ! 神官はこっちで手配して、旅が終わるころに顔をだしてやればいい!」
カイルは尻尾をバシンバシンと床に叩きつけ、苛立ちを隠せない様子だった。
「ふっ。まったく名案だが、王国との長年の繋がりを考えればそうも言ってられんさ」
「……あの……教会都市の神官っていうと……その…………」
「心配するな、マヘリア。それは、あちらとて御同様だろう。無論、人選に関しては配慮を願っておいてある」
「よかったぁ」
「変なヤツだったら、あたしが追いだしてやる」
「リィリィっ」
「ふっ。ほどほどにしてくれ」
「ところで叔父様、どうしてクロが?」
リィザが親指でクロヴィスを指しながら訊ねる。その表情はすこし不満そうだ。
「前回のことも鑑み、連絡・情報収集に"梟"を使う。クロヴィスには、お前たちについてもらうことにした。無論、正規メンバー扱いではないが……」
「お気遣いなく閣下。オレは務めを果たすだけです」
「叔父様、別の人に変えて下さい」
「いきなり、そりゃねぇだろ」
「ふっ。そっちもほどほどにな。……そんな訳だ、悪いが出立まであまり時間をやれん。三日ほどで準備してくれ」
「…………緊張した。……しかし、すこしやっかいな事になったな」
ヴァレリオとカイルに挨拶をし謁見の間を出ると、ランスが気の抜けた様子でつぶやいた。
「ああ。いきなりシロツバル行きなんて、な。冗談じゃない」
クロヴィスが吐き捨てるように言うと、
「で……でも仕方ないよ。それに、いっしょに行く人も、もしかしたらいい人かもしれないよ?」
「……マーはホントにやさしいな……。……ッ!? っってぇぇぇっっ!!」
「さっさと準備しに帰れ」
「……おま…っ、今日むしりすぎだぞ……っ」
二人の様子に朗らかな笑顔のマヘリアの後ろには、ざまぁ顔で拳を握るランスがいた。
「…ヴァレリオ様が言ったとおり、向こうも嫌だろうから人選は心配ないと思う。
ただ……」
「カティア……」
「マー……。……痛ぅっ!
…ま…まぁ、よりにもよって精霊教会の総本山だからな、不安になるのも当然だ。
なにかされることは、さすがにねぇだろうけどな」
「さっさと準備しに帰れ」
「……お前な…………」
一行が城内の廊下を歩いていると、ふとランスが切りだした。
「そういえば、リィザの"二つ名"ってどうなるんだろうな。俺たちも、その一行として呼ばれるわけなんだし」
「かわいいのがいいな。あ、でもカッコイイのも、リィリィに似合うし……」
「二つ名というからには、特徴をとらえてないとな」
「あ~…『黒いリボンの勇者』とかか?」
「長い、却下。さっさと準備しに帰れ」
「『リボンの勇者』よりは、いいだろぉがよ」
「…『姫騎士の勇者』は? 歴代、王族から勇者が出ることはあっても、姫の立場にある者が勇者になったことはないから、だれともかぶらないし」
「かわいいし、カッコイイね! カティアっ」
「……まぁ確かに無難なとこではあるな」
マヘリアはすこし興奮した様子で耳をパタパタさせたが、ランスは顎に手をあて、いまいちしっくりとこないといった様子だった。
「…でも、過去、勇者に二つ名が付く時は、多数の死傷者が出るような重大な出来事や大きな異変が起こった時だけど」
「えっ、そうなの!?」
「二つ名で呼ばれねぇような、平穏無事な旅になればいいけどな」
リィザとマヘリアは宮殿の外まで三人を見送り、自室へと戻っていった。
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