第二十七話 大口の魔獣
「ぐっ……、なんだってんだ、今のは…ッ!!」
マヘリアの一撃によって、洞窟の通路をふさいでいた岩が取り除かれた。
"奴"は、吹き飛ばされた巨岩の直撃を受け、さらに飛んできた他の岩に埋もれている。
「だ…だいじょうぶでしたかっ!?」
「おめぇかッ!? こんな無茶苦茶なマネしやがっ…たの……は…………」
真っ先に飛び込んだマヘリアにレイが食ってかかったが、なぜかその声はしだいに小さくなり、目を見開きマヘリアを見つめていた。
「ごごごめんなさいっ…!! …あの…お怪我は……あぁっ…ひどい怪我っ!」
マヘリアは慌てて頭を下げると、レイの後ろのザイエフに気付き、うろたえた声を上げた。
「心配するな……これは君のせいじゃない……」
「テオ!」
「はっ…はいっ!」
ザイエフが力尽き、岩に背を擦るようにへたり込むと、ランスとテオが駆け寄った。テオがすぐさま詠唱を始め、ランスは二人を庇うように盾を構える。
すると、マヘリアが吹き飛ばした岩の山が崩れ始め、中から"奴"が姿を現した。
「やっぱり、魔獣だったみたいね」
「でけぇな…なんか気持ちわりぃし……」
「怖気づいた? クロ」
「…ハッ! 冗談だろっ……!」
挑戦的な笑みを向けるリィザに、クロヴィスが声を張り答える。
二人はゆっくりと剣を抜き、身構えた。
四つ脚で毛はなく、その青白い身体はツルツルしているようにも見えるが、非常に筋肉質で、三又に分かれた尻尾もそれぞれが意思を持つかのように、しなやかに、力強く動いている。
退化しているのか目にあたるような物は見当たらないが、特徴的な大きな口には、人のもののような歯が並んでいた。
「ずいぶん傷だらけだな。一気に片づけちまおうぜ」
「気を付けろ……。図体こそデカいが動きは素早い……」
剣を肩に乗せ余裕を見せるクロヴィスに、岩にもたれたままのザイエフが苦言を投げかけると、「大口の魔獣」は、くわえていた岩を噛み砕きリィザとクロヴィスに向け突進した。
「……を交わす。鳴らせ。精霊の悪戯。
詠唱を終えたカティアが杖を差し向けると、魔獣の頭の右上で爆発が起きる。
魔獣は、突進の勢いそのままにバランスを崩し、前のめりに滑り込むようにして横転した。
リィザたちが、すかさず切りかかる。
鮮やかな連撃受け、魔獣は身をよじるようにして暴れている。
「おいおい。なんだよ、こんなもんかぁ? ちったぁビビって損し…っ…ぶねっ……! なんだっ!? ……が…ッ!!」
「クロ…っ!?」
双剣を縦横無尽に振り回し、流れるように切りつけていたクロヴィスだったが、突如襲った魔獣の尻尾の連撃を避けきれず、横殴りに跳ね飛ばされた。
「クロヴィス、だいじょうぶか!? 油断するなっ」
「……っててて。悪ぃランス、助かった」
防御魔法で衝撃を受けた程度で済んだが、魔獣はまるで怒り狂ったかのように三又の尻尾を振り回し、叩きつけている。洞窟を崩し、岩を跳ね上げ、近づく隙を与えない。
「くっ…。もうすこし広いとこに出たほうが良さそうだな……。テオっ、まだ終わらないか!?」
「す…すいませんっ。…わっ…! とても集中できる状態じゃ……。それに思ってたよりも傷が深くて……」
魔獣の跳ね飛ばす岩は、治療中のテオの近くにも飛んできていた。
近くて岩が跳ねるだびに、テオの体も跳ね上がるように反応する。
「どうすんだ!? これじゃヘタに近づけないぜっ!」
「あたしがやる。すこしだけ時間を稼いで」
リィザの身体を不思議な光が包み始めると、その光に反応したかのように魔獣が一瞬動きを止め、人の悲鳴のような声を上げたかと思うと、さらに荒ぶったようすでリィザに突進した。
「…
魔獣の脚が凍りつき、一瞬バランスを崩したが、自らの尻尾で氷を砕き再び進もうとする。
「よし! 勢いは死んだ! いくぞ!」
「うんっ!」
クロヴィスとマヘリアが魔獣に立ち向かう。
尻尾をかわしながら何度も切りつけるが、なぜか魔獣の標的はリィザのままで、尻尾以外は二人に構わず進み続けている。
「なんだってんだ……。手ごたえはあるってのに……!」
「リィリィっ……!?」
「……おまたせ」
光に包まれたリィザが剣を構える。
一瞬のうちに魔獣の右に現れると、噛みつこうと頭を振った瞬間には剣を振り抜き左に移っていた。
激しく血しぶきが噴き上げ、魔獣が大きくのけ反るころには、左の後ろ脚、飛び上がり回転しながら尻尾、魔獣の背へと降りると同時に剣を突き立て、切り裂くように引き抜くと、土砂降りの血の中、リィザは魔獣の頭めがけ、その背を走った。
痛みに苦悶するかのように激しく首をくねらせる魔獣の頭を捉えると、宙返りをしながら縦に切りつけ、振り向きざま横に一閃する。
魔獣の頭が、爆ぜたように血を噴き出し、その巨体を地面に叩きつけるように崩れ落ちた。
「……おいおい……これが覚醒者の力ってやつかよ……」
興奮気味のマヘリアを除いて、呆然とした一同の中で唯一、クロヴィスがつぶやいた。
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