勇者
第十三話 "リザ×マヘ"への刺客
最終試験の終わった日の夜は、朝の「約束」どおり「尻尾にぎゅ」をして眠った。
マヘリアは、リィザがいろいろとしてくるのを覚悟していたが、その日は、疲れたからなのか、安心したからなのか、顔をうずめるとすぐに寝てしまったようだった。
「(…………なんか……ちょっと、さみしい…………)」
背中越しにリィザの可愛らしい寝息が聞こえてくるが、その寝顔を見ることができないのが、マヘリアにはほんのすこし不満のようだ。
翌日は騎士候補生学校での「騎士就任式典」が行われ、その後、リィザとマヘリアは宮殿での挨拶回りに追われた。
終始上機嫌なマヘリアに対し、すっかり辟易とした様子のリィザは、
「あぁ~……つっかれたぁぁぁ~~~……ぁあぁぁぁぁ…………」
部屋に戻ると、礼装姿のままベッドに倒れ込んでしまった。
「お疲れ、リィリィ」
「……マーは、なんでそんなに元気なのぉ……?」
「えへへ……そぉかな?」
マヘリアにとっての今日は、リィザの「別の顔づくし」で、昨日の鬱憤を晴らして余りある一日だったのだ。
「んむぅ~……。あ、そーいえば、ヴァレリオ叔父様とは何話してたの? 個別の話って言ってたけど」
ヴァレリオ・ハイザラークはサイラスの異母弟であり、今は、同じくサイラスの異母弟でありヴァレリオにとっては異母兄である、現王レナードを補佐する宰相の地位についている。
「あ、うん。明日、謁見の間に来いって」
「え!? それ、あたしも行くけど……じゃあっ」
「うんっ、たぶん。……でも、もしかしたら私は行けないって話かも……」
「それはないでしょ。わざわざそんな所に呼び出しといて、そんなこと言いだしたら、あたし、暴れるから」
「ダメだよ、そんなの~」
「あははっ。でも、きっとだいじょうぶだよ。昨日だって大活躍だったんだし」
「……だといいんだけど」
その日の夜も、すっかり疲れ切ったリィザはベッドに入るなり寝息を立て始めてしまった。
「……もぉ。……寝顔が見れるのは、うれしいけどさ……」
明日のことで不安な気持ちがもたげるマヘリアは、リィザの頬に手を添えながら、なかなか寝付けないでいた。
翌日、リィザとマヘリアが謁見の間に向かうと、前室には緊張した様子のランスとカティアの姿があった。
「えっ? ランスとカティアも呼ばれてたのっ?」
「あ…ああ。俺たちは、式典の後に呼び出されてさ」
「これで間違いなくなったね、マー」
「う、うんっ!」
マヘリアが、ほっとしたように弾んだ声をあげると、
「お? なんだ、もう揃ってるのか」
獣人の少年が前室に入ってきた。
背は高く、すこし細身の体はよく鍛え上げられている。
栗色の髪からのぞく耳は半円を描くように丸く、輪を連ねたように縞模様の入った尻尾も、太く、丸みをおびた形状をしている。
「クロ!?」
「どうしてクロがいるの?」
クロと呼ばれた少年はリィザの質問には答えず、まっすぐマヘリアのもとへ歩み寄った。
「マー、聞いた。最終試験、すごかったんだって? 魔獣を真っ二つにしたんだろ?」
「え? ……えへへ。すごくはないよ。リィリィや、みんながいてくれたおかげだし、それに、私もあの時は本当に無我夢中で……」
「いや、ホントすごいって。オレも、お袋の用事がなきゃ見に行きたかったんだけどさ……。それより、やられたって聞いたけどケガはいいのか? 痛いとこは…?」
「あ、うん。全然だいじょうぶだよっ。ありがと、クロ」
「ホントか? ならいいんだけど、あんまり無理はするなよ? ったく、リィは何してたんだ? オレがついてれば、そもそもこんな…………ぃっっってぇぇっっっ!!!」
「近すぎッ! 離れろッ!!」
「リィッ!! お前、尻尾の毛はむしるなって何度言えばわかんだよッ!!
全、獣人を敵に回すぞッ……!!
…っはぁっ…ってぇぇぇっっ!!! っおい!!!」
今度は両手で尻尾の毛をむしり、翼を広げるように天に突き上げたリィザの両腕の先から、栗色の毛がキラキラと舞い落ちた。
さらにむしり倒そうとするリィザと、リィザの両手首を掴み必死に阻止しようとするクロと呼ばれた少年、二人の様子を見ながら朗らかに笑うマヘリアを見ながら、…………ランスは戦慄いていた。
「…………なんてことだ……リザ×マヘに、刺客が………っ!! ……誰なんだ、あいつは……っ」
「…リザ×マヘって何? ……あ、いい、説明しなくて。あの人は、クロヴィス・サルファー。ランスも聞いたことぐらいはあるでしょ?」
「……サルファーって『ミネルヴァの梟』の、あのサルファー家か?」
「…そう。それで、あの人はメリッサ様の息子」
「……メリッサ様の…………ってことは……」
「…サイラス様の御子…って言われてる。公にはされてないけど。師匠の話だとサイラス様によく似てるって」
「……サイラス様に………………」
「…あの人、すこし前から師匠のところによく来てて。でも、今日はどうして…」
「……ぐっ……リザ×マヘの刺客が、サイラス様の……。俺はっ……俺は、どうしたらっ…………!!」
「…………はぁ。まぁいいか」
「皆様、お待たせ致しました。どうぞ謁見の間へ」
悶絶するランス横目にカティアが深いため息をついた時、前室に現れた従者が告げた。
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