第五十六話  記憶の鍵 ーヤクソクー

「あった、あった。これだなっ」



 ビナサンドを後にした一行は、中央と南部地域の境、キアカの森に来ていた。

 


「確かに、アオニの物と似てはいますね」


「あ、そっか。テオ君は、こっちのは初めて見るんだっけ」


「この木……相変わらず、何か言ってるな」



 ランスが、あごに手をやりながら眺める古木は、以前と同じように"うろ"のような穴から不思議な"音"を発していた。 



「ほらほらっ、やっぱりこの穴、あの石の形にそっくりだよっ」


「だな。……んで?」


「ん?」


「穴と石の形が似てて、それでどーすんだ?」


「え? さぁ?」


「おいおい、マー……」



 頭の上に"はてなマーク"を浮かべるクロヴィスとマヘリアに、カティアがため息をつきながら話しかける。



「…手紙の内容から考えれば、石は鍵。その穴に、はめてみればいいんじゃない?」


「さすが、カティアっ。……よ…いしょっと。あれ…? なんで? はまらないよ……?」


「…マヘリア、それ、たぶん前と後ろが反対」


「え? ……あ…ホントだ、はまったっ」


 

 大きな赤い石をはめ込こまれた古木は、突如赤い閃光を発したかと思うと、これまでとは打って変わって、はっきりと、言葉を発し始めた。





~・~~・~・~~・~・~~・~・



「……"ヤクソク"ダ……"ヤクソク"ダ…………」



 目の前の赤い"もや"が言う。



「ああ! 約束でも何でもしてやる! だから、さっさと俺に力をくれ!」


 

 奴ら、性懲りもなくまた来やがった。

 ついこの間、こいつに力を借りて、追っ払ったばっかりだってのに。

 

 はやくしないと、みんなが殺されちまう。


 ……きた。

 

 力が宿った感覚を確認して、俺は隠れていた納屋を飛び出した



 戦っているやつ、逃げまどう女子供。

 村には火が放たれて、そこら中から、悲鳴と血の匂いがする。


 ……でも、まだ助けられる。




「いたぞっ! あいつだ!!」


「あいつさえ始末すれば、後は問題ない! 先に仕留めるぞ!」



 俺に気付いた"奴ら"が、集まり始めた。 

 好都合だ。


 俺は、"奴ら"に両手を向ける。


 前回、"もや"に力を借りたら、髪がごっそりなくなった。

 村のみんなに散々笑われた。ひでぇよ。英雄だろ?



「"ヤクソク"ダ……」


「わかってるって! いくぞ、てめぇら! 覚悟しろ!!」



 今回は、一人たりとも逃がしはしない!







 気が付くと、俺は地面に顔を付けて倒れていた。


 

「ごほっ…ごほっ……」



 煙にむせて、起き上がろうと手をつこうとしたが、体が動かない。



「くそ……。みんな…どうなったんだ…」



 脚は動くみたいだ。他の感覚もある。

 腕だけは動かせない。ケガでもしたのか?


 なんとか体を起こし、腕の具合を確認すると。



「…………ない?」



 腕がない。


 不思議と痛みはまったくないが、肩からきれいに無くなってる。

 いや、正確には左腕の方は、肩から肘までの間で半分ぐらいが残っていた。


 

「な……なんだよ…これぇぇっ…!!」



 なんで……なんで腕が……。



「……あいつか」



 あの"もや"のせいだ。

 たしかに前、力を借りた時は「お前の物を差し出せ」とは言われた。

 でも、この前は「髪」で今回は「両腕」なんて、おかしいじゃないか…!



「おいっ…! いる……ん…………」



 問いただそうと、"もや"を探してあたりを見回した俺は、おかしなことに気が付いた。


 だれもいない。

 助けたはずの、村のみんなが。


 "奴ら"は無事に仕留められたみたいだった。

 黒こげのやつや、まだ全身火にまかれたやつが転がってる。


 村は、やつらが焼いたよりも火が回っていた。


 

 こんなに大勢いたか?


 

 死体の数が異常に多い。

 今回は"奴ら"も数を揃えてきたけど、それでも、こんなには……。



 答えに察しがついた時には、俺は地面に頭を打ち付けて吐きまくっていた。


 別に自分を痛めつけたかったわけじゃない。

 とっさに手をつこうとしたけど、 無かったから、そのまま地面に突っ込んだだけだ。





 自分で滅ぼした村を出て、彷徨っていた俺を拾ったのは、"新しい王国"の軍隊だった。

  

 聞けば、あの"もや"を見たり話せたりするやつは、限られているらしく、"新しい王国"では俺みたいなやつを探しているらしい。


 拾ってくれた部隊では、他にも、俺みたいなやつを何人か見かけた。

 みんな、どこかしらが"無かった"。



 その後も、いろんな"もや"が話しかけてきた。


 青いやつ。黄色いやつ。緑のやつ。

 黒いやつもいたな。


 俺は、その度に"無くなって"いったけど、もう、そんなのはどうでもよくなっていた。

 

 どうせ帰る場所もない。

 

 俺が壊した。

 

 いろいろ"無くなった"俺に、真っ当な人生なんて、あるはずがない。


 

 求められるまま、力を使い、最後には板に乗せられて運ばれながら、戦場を渡った。

 両脚どころか、最近では身体の中身まで無くなっている。

 



「……"ヤクソク"ダ……」



 その日も、"もや"に力を借り敵を倒した後、俺は異変に気付いた。


 妙な姿になっている。


 丸い。


 なんだかプニプニしている。



 妙な姿になった俺は、部隊から追い出された。

 この姿になった者は、もう"もや"から力を借りられないらしい。


 用済みだ。


 

 けど、正直、"人間もどき"の姿よりはマシな気がした。

 

 飛び跳ねれば移動もできるみたいだ。

 案外、悪くない。



 飛び跳ねながら移動していると、同じようなやつを、たくさん見かけた。

 

 こいつらも、俺と同じか。

 

 

 いろいろな場所を巡るうち、この姿にも、「白いやつ」と「灰色のやつ」がいることに気が付いた。


 この姿は口が利けないけど、白いやつは意思がある、そんな気がした。

 灰色のやつには、それがない気がする。

 いつもだらしない表情で、ただプニプニしているだけだ。


 ……でも、なんだか幸せそうだ。


 俺も、ああいうのがいい。


 今も、そこら中で殺し合いをしている。

 

 どこかを"無くしながら"それでも、使命感に燃えた目で力を使っているやつも、板に乗せられて死んだ目で力を使ってるやつも、あれから何度も見てきた。

 みんな、かつての俺だ。


 なんの意味があったんだろう。

 俺のしてきたことは、いったいなんだったんだ。

 

 ……あんな風になりたい……。

 

 もう、なにも…考えず、なに…も思い出さ……ず、…た…だ……幸…せそ…うに…………。

 

 


・~・~~・~・~~・~・~~・



「うぅ~……っ。何ぃ? これぇ……」


「……くっ。頭の中に映像が飛び込んでくるみたいだ……。これが、"記憶"なのか……? ……だれの……?」



 やがて古木は、赤い石を樹皮で飲み込むと、魔物が死滅するように崩れ去っていった。



「なんだったんだ? ありゃあ……」


「…入ってくる映像は断片的だったけど、魔法とプニニに関する話。……だと思う」


「えっ!? じゃあ、カティアもプニニになっちゃうのっ!?」


「…ならない。わたしたちは魔力を対価として差し出してるから。たぶん、さっきの話は、そういう仕組みができる前のかなり古い話。……たぶん」


「前話してた、魔法の始まりってやつか? テオはどう思う?」


「………………」



 テオは、古木のあった場所から視線を動かさず、固まってるようだった。

 声をかけたクロヴィスがテオの顔を覗き込む。



「おーい、どうした?」


「…………え? あ、すみません。……なんでした?」


「さっきの、どう思うかって話だよ」


「……あ、いや……たしかにありえる話だとは思います。ただ、あれだけではなんとも……」 


「まぁなぁ」



 


「それにしても、ジィさん。こんなものオレたちに遺して、いったい何がしたかったんだろうな」


「さあ? あたしたちは、あたしたちがすべきことをするだけ。いくよ?」



 奇妙な体験に戸惑っていたが、リィザの言葉に、一行はキアカの森を後にした。




 記 A・C



 

 

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