第四十五話 火の鳥の魔獣
「熱っ…。さっきからの暑さは、ここのせいか」
「えぇ~…っ。やだぁ……」
「ここが最深部……でしょうか?」
一行が大きな扉を開け中へと入ると、そこは広い空間になっていた。
薄暗く、見上げるほどの天井は闇に覆われるほどだ。
奥には祭壇のようなものがあるが、長らく使われてこなかったであろうそれは、ところどころが崩れ、焼け焦げたように黒ずんでいた。
「……いる」
「ああ。みんな油断するな」
リィザが数歩前に出たのち剣を抜くと、並んだランスが盾を構える。
すると突然、それまで薄暗かった"祭壇の間"が明るくなり、同時に熱風が一行を襲った。
「……え…っ? ……熱…っ!!」
「上だっ! くるぞっ!!」
ランスが盾を上へ向け展開した防御魔法を覆うように、炎の波が押し寄せる。
「ぐっっ…!!」
「ぅぉぁあっっつっ!!」
「出るな、クロヴィスっ! 死ぬぞっ!」
防御魔法と大気の膜越しでも伝わる熱に、たまらず飛び出しそうになるのをランスが止めた。防御魔法の傘の範囲外では、壁か天井から崩れた小さなかけらが、炉の中の鉄のように鮮やかな朱に染まっている。
「くそっ…! とんでもねぇぞ!」
炎がおさまった後、けたたましい鳴き声と熱風をともなう羽ばたきの音を響かせ、巨大な炎が降り立った。
「あれは……確か、ベックセプトルム。……だが……どういうことだ。……順番が違う……」
ランスの困惑をよそに、鳥のような姿をした巨大な炎は大きく翼を広げ、再びけたたましい鳴き声を上げた。
「なんだかわかんねぇけど、あれも『迅雷』の時の魔獣なんだろっ? どう戦えばいいんだっ?」
「……あ、ああ。あいつは物理攻撃が効かない。魔法で仕留める」
「よしっ! テオ、カティア! あとは任せたっ」
「えぇぇぇっっ! むむ無茶言わないでくださいっ! あんなのと戦ったら、黒こげどころか、影も残りませんよっ!!」
片手を上げ後ろに下がろうとするクロヴィスを、テオがすがりつくように止める。
「だいじょうぶだ、お前ならできるっ」
「無理ですってば! だいたいクロヴィスさんだって魔法使え…」
「ちっ! あぶねぇっ!」
突如放たれた火球に、クロヴィスがテオを抱え倒れ込むように躱す。
再び舞い上がった"火の鳥の魔獣"は、大きく旋回すると、翼を素早くひるがえし無数の羽を飛ばした。
「わわわわっ! あぶないっ! 熱いっ!」
放たれた羽が火矢のように降りそそぐ。
「リィザとクロヴィスは前衛だ! スポット魔法でいい、けん制してくれっ。俺とテオは、ここで固定。テオはカティアが仕留めるまで、頼む!」
「……ちっ。しょうがねぇなっ! カティアっ、"なるはや"で頼むぜっ!」
「…わかった。…………"なるはや"って何?」
「ここで固定、って……一番狙われるんじゃ……」
「ランスっ、私はっ!?」
「……と…とにかく動き回ってくれ……!」
「えぇぇぇ……っ」
ランスの指揮により、一行はそれぞれに散開する。
リィザとクロヴィスは、魔獣に駆け寄り注意を引きつけると、「羽」を躱しながらスポット魔法を発動するが、放たれた氷の魔法は魔獣の体に飲み込まれるように消え、効果があるのかは怪しかった。
「オレたち、氷の魔法は相性わりぃからなぁ」
「それでも、やるしかないでしょ。あたしたちの役目は、あくまで時間稼ぎ」
「……我、テオ・ディグベルの名において"契約"を交わす。
貫け。闇を穿つ女神の指端。
テオが放った無数の光の槍は、何本か壁に突き立ちながら飛び回る魔獣を追い、やがて一本が魔獣を捉えると、獲物に群がる猛獣のように複数の光の槍が魔獣を貫いた。
「すげぇ! やっぱ、やればできるじゃねぇかっ!」
「ダメですっ…! 効いてはいますが、まだっ…! クロヴィスさん、あぶないっ!!」
「……やべぇ! しまっ…!! ……んぐぇっ!?」
小躍りするクロヴィスに魔獣の放った火球が迫るが、リィザがクロヴィスを蹴り飛ばし身体に光を纏ったかと思うと、剣のひるがえる輝きがキラキラと光り、火球はいくつもの小さな炎となって飛び散った。
「おいっ! 今の、蹴らなくても防げたんじゃねぇか!?」
「あぶないとこだった」
「ホントかよっ! 地味に効いてっ…んぞ、さっきのっ…!」
脇腹をおさえ涙目で抗議していると、一人後方に下がっていたカティアのまわりで急激な魔力の高まりが起こっていた。
「…
杖の先から蛇のように放たれた複数の水の筋は、魔獣を追ううちに縄のようにあざなわれる。
逃げるように飛び回る魔獣に何度か体当たりするようにぶつかると、やがてその脚にからみつき、ついには身体全体を捕らえ、魔獣はそのまま地面へと落ちた。
絡みついた水の綱が、暴れる魔獣を締め付けるように動くと、同時に凄まじい蒸気と熱風が放散される。
「熱っ…! 熱いーーーっ!!!」
「マヘリアっ、みんな! こっちへっ!」
一行はランスの背後へと回るが、防御魔法を応用して大気の膜を押し広げてもなお、吹きつける蒸気には気休め程度にしかならない。
やがて、激しい蒸気の放散が収まると、白い"もや"の中に鮮やかな赤が猛々しく動くのが見えた。
「ダメか……」
「いえっ、見てくださいっ! すこし小さくなってますよ!?」
いまだ魔獣の動きに弱った様子は見られなかったが、身体に纏った炎は、先ほどまでの勢いを失っているようだった。
「効いてんぞ! カティア、もう一発だっ!」
「……いや、さすがにこの暑さは、まずい。一気に仕留める必要がある」
「…時間ちょうだい」
考えがあるのか、カティアがすぐさま詠唱を始める。
「しょうがねぇな…っ。リィ、いけるなっ?」
「こっちのセリフでしょ」
「違ぇねぇっ。……やるぞっ!」
再び舞い上がった魔獣に向かい、リィザとクロヴィスが駆け出した。
記 A・E
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