第二十四話  兵団支部トクサ

 要塞都市を出た一行は、ケンケンのおかげもあり、さほど時間をかけず目的地トクサへと到着した。

 兵団支部であるトクサは、住民こそいるものの、町というよりは砦に近い造りをしている。



「…かっ…開門! 開門ッ! なにやってる、急げ! ……おい! すぐ副長にお知らせしろっ!」



 一行が門の前に着くと、城壁の守備兵たちが慌てふためいたように動き回っている。

 トクサに入ると、まさか勇者一行が来るとは思っていなかったのか遠巻きに見るだけであったが、守備兵からは控えめな歓声が方々から漏れていた。



「ありがとう、お疲れ様。この子たちをお願い」


「は…はっ…! 失礼いたします!」



 リィザがケンケンの鼻先をなでてやり、守備兵に託すと、恐縮しきりといった様子で手綱を受け取った。


 一行が兵団の詰め所に向かおうとすると、向こうから大柄な男が転がるように駆け寄ってくる。



「お出迎えが遅れまして大変申し訳ございません! 私、東部兵団第三支部トクサ、副長を務めますバーガンと申します!」



 恰幅のいい初老に近い大男で、戦士に似合わぬ優しげな目をしている。



「かまわないわ。状況を聞かせて」


「はっ…! まずは詰め所にご案内を……」

「歩きながらでいいわ。状況が確認でき次第すぐに立つ」

「…はっ…! 申し訳ありません……っ!」


 

 気の毒なほど滝のような汗をかきながらバーガンがリィザに付き従い、一行もその後を追った。

 リィザの凛々しさに、マヘリアがいつになく耳をパタつかせ、尻尾もはげしく揺れ動いている。



 副長バーガンによれば、三日前かねてより調査を進めていた魔物の巣らしき洞窟を発見し、支部長ザイエフ以下トクサの兵が討伐に向かったものの、しばらくして、巨大な未知の魔物に襲われたとの知らせが入り、以降いまだ連絡はつけらずにいるとのことだった。



「なにぶん討伐隊にトクサの人員のほとんどを割いておりましたので、すぐさま救援に向かうこともできず……。支部長の指示通り本部への応援を要請した後、斥候を出しましたので、それが戻ればすこしは詳しい情報が得られるかと」


「待ってはいられない。出るわ」


「おいおい、せめて斥候の帰りを待ってからでいいんじゃねぇか?」


「ここで報告を受けても、あたしたちが先行することに変わりはない。報告は途中で行き会った時に受ければいい」


「まぁ…それもそうだな。いくか」


「我々は、どうすれば……」



 バーガンが、すがるような目でリィザを見る。

 


「先行して、荷車をあるだけ出させて。ここの守備もあるから、人員は最小限でいいわ。後は斥候の報告を待って。直に要塞都市ブーゲンビリアからの増援も来る」


「はっ! 直ちに」

 


 指示には疑念を抱かず、即座に遂行する。"優秀な軍人"なのだろう。バーガンは一行にかまわず詰め所を飛び出し、準備に走り回っているようだった。



「みんなも休むひまもなくて悪いわね。いける?」



 リィザの問いに、一行が力強いまなざしと微笑みで答えた。





 再びケンケンに乗り、トクサの兵に聞いた洞窟へと急ぐと、さして間もなくトクサへ戻る斥候と行き会った。

 

 驚きと焦りで、しどろもどろな斥候をなだめ聞き出すと、未知の魔物の襲撃を受けた討伐隊は支部長ザイエフと戦隊長レイが殿しんがりとなり、兵たちはすでに洞窟の外への脱出に成功しているという。



「ですが、手負いばかりで自力では歩けぬ者も多く……。洞窟の内部も、魔物を食い止めるためにザイエフ様が洞窟を崩され、確認のしようが……」





 斥候と別れた一行が洞窟のある岩山に到着すると、討伐隊が洞窟の前で野営を組んでおり、話のとおり負傷者で溢れていた。


 現れたのが勇者一行と知れると、動ける者は互いを叩きあって喜び、寝たきりのまま顔だけを向けていた者の目にも強い光が宿った。


 携帯魔法陣が足りていなかったのだろう、薬草で治療している者も多く、野営地は"怪我の臭い"が立ち込めている。



「手分けして治療しよう。テオは傷の重い者を」


「あ、はいっ」



 ランスが携帯魔法陣を取り出そうとしていると、動ける兵数人がそれを止めた。



「お待ちください! 我々よりも、どうかザイエフ様を!」

「ザイエフ様もひどい手傷を負われています。戦隊長が付いているとはいえ、長くはもちません」


「いや…しかし……」


「我々は、もしもの時ここで最期をご一緒しようと留まっていたのです。覚悟はすでにできていました。ですが勇者様方がいらっしゃった……!

どうか…どうか、ザイエフ様をお助け下さい!」


「わかったわ……必ず連れて戻る。でも治療はしなさい。傷の重い者のぶんくらいはあるから。どちらになるかは約束できないけど、それでも、あなたたちは生きてまた支部長に会いたいでしょ?」



 涙を流し膝を折り、すがるように訴える兵たちに告げ洞窟へと向かうリィザの背中に、兵たちは無言で平伏した。




 洞窟内部へと入ると、撤退の様子を物語るように様々なものが散乱していた。

 血の臭いがいっそう濃く立ち込め、気を重くさせる。



「すごい…ですね……」


「そんな顔すんなよ。"癒し"の携帯魔法陣はありったけ置いてきちまったんだ。

お前は最優先で守られるぜ?」



 杖にしがみつくように肩をすくめるテオに、クロヴィスが妙な励ましの声をかける。

 しばらく行くと、洞窟が崩れ大きな岩でふさがれた場所にたどり着いた。



「ここね……」


「うん……。おーーーいっ。だれかいますかぁーーーっ?」


「マー……。間違っちゃいねぇとは思うけど、そりゃあ……。

って……いるな。……声がする」


「うん。……壊します! 離れて下さい!」



 そう言うと、マヘリアは手にした大斧をみるみるうちに巨大化させた。



「お…おいっ、マー!」


「えぇぇぇぇいっっ!!」



 気合いの声とともに、マヘリアは巨岩にむけて大斧を打ち込んだ。




 記 A・C




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