第2話 リカさん実は怖かったよね

「この馬車、お尻が痛くない」


紅い椅子を触りながら、ササラが言うとリカが優しく微笑みながら説明をしてくれた。


「これは、私の召喚馬車でして。魔力が続く限り車輪が壊れても自動修復しますし、椅子も風魔法と重力魔法で浮かせていますので快適ですよ。又、室内は椅子の下部分を引き出すとベットになりますし。氷と火と風魔法で、室内温度調整もできます。床下に、ちょっとした収納もありますし。坊ちゃまは、走った方がはぇぇからイラネとかぬかしやがりますが。全く、あの方は専属メイドを何だと思ってらっしゃるのか。その方の様々なお世話をして護衛も兼ねるのが我々だというのに、やれ俺が戦った方が強いだのなんだのと。ぶつぶつ……」



それを聞いて、何とも言えない顔になるササラと鈴。


「結構、溜まってるみたいだから適当にあいずちうっとこう」


「そうね、ササラちゃん」


小声で打ち合わせを、完了させると笑顔を顔に貼り付けるササラと鈴。



「お嬢様方、窮屈で申し訳ありませんが一度カイ様を城に連れていかないと色んな方が心配致しますので。真に、申し訳ございませんが一緒に登城願います」



軽く会釈をするように再び頭を下げ、リカに二人は気にしないでと言った。




「そんで、簀巻きになったカイ君は屋根の上にくくりつけられて今馬車の屋根の上だけどそれは不敬になったりしないの?」



「カイ様は生きてるだけで、色んな人に対する不敬だからノーカンです」



「「うわぁ……」」


それにしても、この馬車こんなにスピード出してて子供とか飛び出して来たら危ないんじゃ。



その時眼の前に、犬獣人の子供が飛び出して来てリカが慌てて手綱を引いて急ブレーキをかけるがギャリギャリと凄い音がでて大地を滑ってく。



「あぶねぇ!!」屋根の上でカイが叫ぶ。



「全く…、馬車が急に止まれないのは異世界も一緒ならもうちょっとスピード落としなさいよおっちょこちょいねぇ」



そういって、肩の上に角刈りのマッシブでブーメランパンツ一丁の男の精霊を呼び出す。


「アース」ササラが顎をしゃくると精霊は馬並のサイズに巨大化し、そのテカる肉体が浅黒く眩しい。


無言で親指を立て、歯が光った瞬間姿消え。


子供の前に素早くアースと呼ばれた精霊が両腕をクロスし、大地を踏みしめ体勢を低くする。



「アース、パンプアップ!」



肩が一気にビックに膨らみ、腹が板チョコのごとく八ブロックに割れた。



「何をなさる気です?!」



「アース、背負い投げ」


そのササラの声を聞き、アースと呼ばれた精霊が走って来た馬車にタイミングを合わせ、背中から生やした二本の腕と合わせて四本腕で馬ごと弧を描く様に投げ飛ばした。


「ぎぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁ!!」馬車の屋根からは簀巻きのまま一緒に飛ばされるカイの叫び声が聞こえたが努めて無視する。



まるで、障害物競争のハードルを越える様な軌道で頭を抱えてしゃがみ込んだ子供の1メートル程上を飛んで。馬車ごと着地し、衝撃もそこそこに馬車は停止した。




「リカさん、急ぐのは判るけどもうちょっとゆっくり走らせた方がいいわよ」


そういって、赤いジャージのササラが馬車に座ってにこりと笑う。


「はい…、申し訳ございません。それにしても、普通精霊は美少女や美女が多いと聞きますが。ササラさんの精霊は、その何というかえらい筋肉質なんですね」



「魔法とか技術は、想像力と妄想力とそれを実現する力技が私の信条だからね。精霊を私が大好きな筋肉系に、魔改造するぐらいお茶の子サイサイよ♪」


そういって、左目をウィンクするとまた鈴の横に座って足を組む。



(馬車ごと投げ飛ばすなんて、なんて力技。カイ様が師匠と呼ぶだけの事はあるわね)



ぽかんと、時間が止まっていた子供をその母親が慌てて抱きしめ。それを見ていた、浅黒い角刈りのブーメランパンツが歯を光らせて仁王立ちしていた。



「ササラちゃん、子供も助かったしあの暑苦しいのしまって欲しいのだけど」


「アース、撤収!」左手を軽くあげてそう言うと、アースと呼ばれた男が透けていく。


「ごめんごめん、鈴はあーいうの苦手だったわよね」


「次は気をつけます……」リカがしょげて言えばササラはかるく肩を叩いてにこりと笑った。

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