第53話 超人でも悩むよね


「こっちだ」「おぉ~、これはすんばらすぃ」「おめーこの良さが判るってのか」


ササラは、手前左に立てかけてある木材を一つ手に取ると「これなんか、適当にたてかけてあるけど保存状態はかなりのものね。木材は乾燥に時間がかかるから、魔法や機械で時間短縮のために無理に乾燥させたり。おが屑をボンドでくっつけてプレス圧着で固めた様なボードを使ってごまかすパーが多いというのに、目の状態を見て一撫でして頷いてはこういう場所も下手くそがやると引っかかるのよく滑らかに磨かれてこれをやった人は手抜きって事を知らないクソ真面目か。最高のモノしか世に出したくない変態かって所ね」


それを聞いて、目を見開く建材屋の親父。



「あんた……、やっぱりドワーフなんじゃねぇの?」


「人間よ、失礼ね」


「ゴルドーニュだ、御嬢ちゃん」「ササラよ、ここへはお風呂屋の作り直しの為の建材を買いに来たんだけど良いのはありまっしゅ?」「おう、アンタになら上物のヒノキを売ってやるよ」


「シエル! 一番奥のヒノキ全部売ってやれ!!」


「親父、あれはものの判る奴にしか売らないってあれ程……」


「この御嬢ちゃんは、最高の職人だ。おれが人生で出会ってきた中じゃ最高のな、こんな見た目が若いし最初は疑ったがその手の動きを見りゃそれがよく判る」


「建築は、本職じゃないけどね」


「超人かよ、アンタ」「本物の設計は、現場でやってみろって言われてぐうの音も出ない程完璧な精度だして早くやって職人の胸倉掴んでいってやるのよ。私は自分が出来る事しか書いてないのだから、出来ないなら教えて下さいお願いしますでしょう?怒鳴ってばっかの職人は大体これで黙るわよ」


お互いニカっと笑って、心が通じ合っているのが判る。



「アンタに、できる訳ねぇだろとか言った職人は災難だ」「怒鳴るカスが古いのよ、職人は分からず屋でえらそうなのが多いから」「ひでぇな、そりゃ」「無能に存在価値を認めてあげるだけで、ありがたいと思いなさい」


カッカッカとゴルドーニュが、苦笑しながらも愉快そうにシエルの後をササラと一緒に歩いていた。


「しかし、おっさんも手の動きだけで力量が判るなんて実は建材屋は副業だったりすんの?」「まさか……、俺は職業柄色んな奴を見て来ただけだぜ。ただの、経験だっての」


「魔法がなけりゃ、産業ロボット自作してやらせれば人手だけの連中なんて全員いなくても仕事回るし。AIロボ個人でプログラムからハードまで作ればいいだけでしょ、こっちなら創造魔法で作ればいい」赤ジャージのポケットに手をつっこんで眼の光なく言った。



「アンタにゃ、アンタを理解してくれる人間の方が大切って事か?」


その台詞に、口の端だけ吊り上げて笑った。


そうこう会話してるうちに奥に山積みされている、磨き上げられたヒノキ。


「風呂に使うのもったいなくない?」「俺が売りてぇと思う様な奴でこれが買える奴なんていねぇよ、遠慮なくもってけ」


すっと、漢の腕だけを大量に作り出し。お金をゴルドーニュに財布ごと渡すと、ガンガンアイテムボックスに投入していく。


「本当、羨ましいこって。その才能も力量も」


ゴルドーニュが、貰った財布をポンポンとやりながら呟く。


「やればできるとか言うのはただの迷信よ、世には勝者と成功者の言葉しか残らない……。でもね、技術屋ってのは挑戦者なのよ。挑戦しない奴は技術屋じゃないし、技術屋なら挑戦し続ける。挑戦する心を、持ち続けてこその技術屋なのよ。技術で語ってこそ、技術屋でしょ。そこに、性別も年も経験さえ些細な事なの」


「おしいな、男だったらシエルの婿に欲しいとこだぜ」「願い下げよ、私は自由に生きるのが好きだもの」


「そうかい?」「えぇ、それに貴方の娘じゃ筋肉が足りなくて好みじゃない」


それを聞いて、ゴルドーニュが思わず手を額にやって笑い出す。


「筋肉は好きかい」二の腕をむんとやれば力こぶが出来た。


「オジサンが、もうちょっと若かったら考えたかもね~」


「そんな子供みたいななりして、好みは随分渋いねぇ」


また、二人でカッカッカと笑って。それを少し離れた所から、シエルが遠い眼をして眺めていた。

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