第8話 シンプルなもの程美味しいよね
「そんな訳で、御夕食の邪魔にならない程度のオツマミ的な何かを作ろうと思います」
おぉーと、拍手するカイとササラ。
「まず、大根を輪切りにして裏表に包丁を入れます」
丁寧に裏表に包丁を入れていく、鈴の手際はいつも見事だ。
その包丁捌きに、思わず料理長も唸る。
皮をむいて、輪切りにするだけなのに切り口も美しい。
「この沢山裏表に切断しない程度の切り込みを入れた、ただの大根をゴマ油で裏表フライパンで焼きます。焼きながら、この特製タレを塗って焼いてを繰り返します。ちなみに、特製タレの中身は、醤油とニンニクをすりおろしたもの等です」
それを、お好み焼き用の小さなハケで塗りながら丁寧に焼き上げる。
その余りの暴力的な香りが、料理場の外までもれ何事かと調理場をのぞき込むもの達が続出した。
「大根が分厚過ぎず薄すぎず、箸でもちあげた時に伸びたバネにみたいにびろんびろんできる程度の柔らかさになったらフライパンから降ろし皿にのせたら食べられます」
「はい、カイ君」といって輪切りを一個のせた皿をカイの目の前に出した。
「こっこんな質素なものを王族にぃぃぃ!」
そう言いながらも、その香りが決してマズイものではないと教えてくれる。
「私の分もはやくはやく!」ササラが急かすので、新たに輪切りを一つのせた皿をササラの目の前に出すが消える様にササラの口の中に輪切りが消えた。
「美味い!!」ササラのその叫ぶような声を聞いて料理長がカイの方を向く。
神妙な顔で、カイが一口サイズに箸で切ったそれを料理長の前にすっと出すと「毒見を頼む」
流石に、料理長だけあって毒見と言われれば食べない訳にもいかず口にした瞬間眼が血走る程に見開いた。
「これは、何というか旨さにのみ振り切った料理ですね。飾り気もなく腹が無駄に膨れて他の料理を邪魔しない旨さだけをこの一皿に一滴として絞ったような」
微笑む様ににこりと笑う、鈴に思わず料理長はかつて修行時代で食べていた賄いを思い出していた。店に出さないからこそ材料で好きな料理をしながら、試しては実験して美味いものを追求していったあの頃を。
「どうだよ?料理長。ウマいだろ鈴さんの作るもんはよ」カイがそう尋ねれば、料理長も無言で頷いた。
(極限まで飾らない味だけのそれ)
「お見事です……」そういうと、無言でコック帽を取ると小さな木の椅子に座った。
「今後も、調理場はご自由にお使い頂いて構いません。もちろん、スキルも自由にして頂いて大丈夫です。ただ、カイ様のという事は将来の御后候補という事ですので万が一という事も考え誰かの眼のある所で調理場を使って頂きたい」
一気にそういうと、調理場の天井を見上げた。
「飾ってばかりの料理を毎日してまいりました、このフクマーク。料理の原点を、教えられた気がします」
そういって、眼を細め笑う。
「そう言えば、あのさカイ君」
「どうしたよ、ササラちゃん」
真顔になって、問いただすササラ。急に、真剣な声色になったために構えるカイ。
「お夕食いらないって言っちゃったけど、それだとカイ君のご飯はこの大根だけになるんじゃ……」
「しょしょしょんなー!!」
今自分の言ったことに気づくカイ、彼は今涙目だ。
「はいはい、ササラちゃん。脅かさない脅かさない」
いつの間にか扉を出して、その中から料理を持ってきた鈴。
「うちの台所って狭いでしょ、だから火にかける所が足りなくて」
そういって、ことりと音を立て出て来たのは炊き込みご飯とお味噌汁。
輝く笑顔になるカイ、チっと舌打ちしたササラ。
「山菜の炊き込みご飯と、赤味噌汁に油揚げ入れたものよ。カイ君沢山食べるでしょ?」
笑顔の鈴に手を合わせ、ありがてぇと言って食べようとした時外から覗いていた連中が雪崩をうってはいってきた。
ササラが笑顔で盛りつけて、それを受け取った人間から食べ笑顔になる。
見る間に減っていき、遂におひつは空になった。
それを、一仕事やり遂げたぜみたいな顔してカイの目の前にササラが置いた。
「これで、君の御夕食は大根とお味噌汁だけ♪」そう輝く笑顔で宣言した瞬間右はカイ左は鈴にほっぺをむにょーんと引っ張られた。
「「ササラちゃん(姉さん)、何してくれてんの?!」」
結局、溜息をついた鈴がドアの中に消えて行きしばらくしたら戻って来た。
「ごめんね、カイ君姉さんが……」そういって、さっきより小さな鍋からキノコの混ぜご飯をよそってカイの目の前に置いた。
「いいって、いいって。それより、鈴さん二度も大変だったろ?こっちこそごめんな」
そういって、二人で混ぜご飯をよそって食べ。
「俺は料理できねぇからさ、モンスターも野菜も果物も斬るのは得意なんだけど」
「出来る事をやっていきましょ」
そういって、二人で笑いあった。
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