第12話 魔導師団ってがり勉ばっかだよね
「それにしても、いきなり呼び出しって何よ」
ぼさぼさの頭をガリガリと後ろ手でやりながら、赤ジャージのササラがブーブー文句を言っていた。
「悪いな師匠、スチュアートの奴が無理言ったみたいで」
一緒についてきた、カイが申し訳なさそうに言うとササラが肩を竦めた。
「あー、カイ君が気にする事じゃないわよ」
二人で、城の一室につくとスチュアートと呼ばれた男が既に身支度を整えて扉の前で待機していた。
「カイ君の頼みだから、来たけどこんな朝に何の用よ」
ぶすっとした顔で、ササラが言えば。
「すいません、先日の騎士団長との模擬戦をみてどうしても理論的に判らない事があったもので」
スチュアートがそういって、その鮮やかな赤い髪の頭を深々と下げた。
「判んない事ぉ~?あんた、魔法使うんでしょ。魔法や魔術なんて、それ自体がわけワカメなしろもんよ。あんなん気合と妄想でワッショイしてれば出来るわよ」
その言葉にカイが心の中で突っ込みを入れた。
(それで何とかできちゃうのは、師匠だけだと思う)
「ワカメ?ワッショイ?」
本気で目が点になっている、スチュアートが気の毒に感じるカイ。
「そうね、例えばこうして自分の得意属性は指の上に炎の様に灯す事で炎球、水球、土球、風球、光球、みたいに指に一つづつ灯す事が出来るわよね」
そういって、指の上で圧縮しながら全てを高速回転させる。
それを見て、はぁ?!みたいな顔になるスチュアート。
「私は、基本光は謎の光専用みたいに使ってるからそんなに得意じゃないけどね。というよりももっと言うと、私は生産職が本業だから魔法や剣術みたいなのはカイ君のが得意とかいうレベルなのよ」
「と得意じゃない……だと!?」
横で、カイも同じように指の上で属性球を回す。
「王子!」
「俺だってこのぐらいはできるさ、つか師匠が一番最初にやらせるのこれだからな」
その台詞を聞いて崩れ落ちる、スチュアート。
「これを、剣にのせて属性剣とか。斬撃にのせて飛ばすとか出来ないと、モンスターによっちゃ危険だしさ」
「あのっ、タンクとかは使わないんです?」
「そういうのもあるけど、ドラゴン相手にタンクやらせて持つ人間なんかいないでしょうよ。そういうデカいの倒そうと思ったら、敵が倒れるまで避けて殴って回復するしかないのよ」
ポケットから取り出した、羊皮紙を床に置いてガリガリとメモを始めた。
「アンタちなみに、どれ位属性使えんのよ」
「あっ、はい水や火や土等基本は使えます」
「じゃ、最初はどれか一個だけで良いから手の上に維持できるようにして」
「発射待ち状態で最低五時間持つようになったら、次の段階進むから」
「五時間も魔法待機ですか…、風呂やトイレはどうするので?」
「浮かしたまま、風呂入ってトイレに行くに決まってんじゃない。特にトイレで制御間違えると悲惨な事になるから頑張ってね♪」
(そういえば、俺最初の方ボットン便所で制御失敗してクソまみれになったな)
しみじみ、そんな事を思い出して遠い目になるカイ。
「自分から離して平気になったら、トイレットペーパー忘れてもトイレから出ないで取りにいけるわよ」
「そもそも、俺だと忘れて焦って制御しくじる気がする」
「じゃ、紙を忘れないようにしないとね」
「おう、そうだな」
(そんな城でモノを取りにいける程制御なんてできる訳が……ってそれが出来るから騎士団長の剣をあれだけ防げる訳か)
「それにしても、王子。そんなに、魔法使えたならなんで剣士なんて」
「何でもできた方が、良いからに決まってんだろ。魔法が尽きたら何も出来ない王様とかカスじゃん。剣が折れたから、部下に守って下さいとか泣きつくの?俺そんな情けない奴になりたくないんだけど」
廊下でその台詞を聞いていた、カイの父が胸を押さえて大ダメージを受けていた。
「そもそも、王が戦わなきゃいけない事になること自体が我々の失態だと思うのですが」
いいよ、もっと言ってやってみたいな表情で応援するカイ父。
「そうならない様に、戦略を練ったり。クソみたいな政治を、しない様にする必要はある。それでも、クーデター起こされないって言いきれるか?貴族が反目しないって保証はあるか?隣の国とかに暗殺者おくられたりするって事もあるだろう。そん時、部下に助けて下さいじゃなく。俺についてこいって言える方が、人はついてくるだろうが」
俺が、守らなきゃいけねぇのは恋人だけじゃなくお前らもなんだよ。
そういって、笑うカイに思わず「仰ることは判ります、ただそれでも我らは貴方の部下なのですからもっと頼って頂ける努力はしなくては」
優しい笑顔で、カイとスチュアートが見つめ合う。
「お互い、やれることをやって行こう」そういってお互いの手を差し出して強く握りしめた。
それを、そっとカイ父はその場から居なくなる様に来た道を戻っていく。
「カイウェル……、そう思うのなら冒険者等せず城にちゃんといろ」
それでも、何処か楽しそうに笑っていた。
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