第38話 夢は覚め現実と向き合うと悲しくなるよね
「記憶がない……」「同じくだ」
騎士二人が、酒場で飲みながら呟く。
酒をしこたま飲んだとしても、職業柄限度と節度を弁えて来た自分達は昨日しゃぶしゃぶなるものを一口食べた後の記憶が無いのだ。
文字通りぶっ倒れるまで、箸を剣の変わりに勇猛に戦いそして食べた。
「夢の様に旨かったな、バーン」「あぁ、料理長が忠告する理由も納得だ」
「レイラ、お前に聞きたいんだが……」「なんだ」
「今、俺達は酒場で酒を飲んでいる。そうだな?」
「あぁ、お前もかバーン」
「「いつもなら、最高にウマいと感じる酒もツマミもまったく何も感じない。むしろ、まずいまである。なぁ、俺達はおかしくなったのか?」」
二人同時に、同じ疑問を口にするがそれに答えたのは二人の隣に座ったカイだった。
「感じないのも無理はねぇ、だってしゃぶしゃぶだぜ?あれを食った直後なら大抵はそうなるさ。だから、鈴さんも滅多に出さないんだしな」
三人そろって、深い深い辛気臭いため息を吐いては酒場の天井を見上げた。
「この世に、あんなものあっちゃいけねぇだろが」「バーン……」
レイラがバーンの肩を叩く、気持ちはわかるからだ。
「また、食べたいな」「あぁ……」うつろな眼でいつものエールを樹のジョッキで傾け口の中にフルーティな味が広がった。
カイも、二人の隣で「稼がなきゃなぁ」と呟く。
「たのもー、あれ?なんで。全員で、辛気臭い顔してんの?」
「師匠か、昨日のしゃぶしゃぶが二人にゃ強烈だったんだよ」「あー」
判る判ると頷くと、自分もエールを注文してカイの横に座ると自分のだけ創造魔法でキンキンに冷やす。
「あっそっか」とカイも自分の樹のジョッキを冷やし始め机に四人が座って。四人とも溜息をついた。
肩と首をコキコキと鳴らすと、ササラが既にあったつまみに遠慮なく手を伸ばした。
「これも、中々いけんじゃない♪」
「それ、俺達のツマミ」「さっき、自分達でまずいって言ってたじゃん」
そういって、勝手に近くに着席してひょいひょいと口に運びながら「おね~ちゃん、串焼きの追加お願いね~」と大き目の皿で多めに頼んで銀貨を手渡した。
「我らも頂いても?」「もちろん♪どうせ薄汚い盗人捕まえた礼金だもの、パーっとやりましょ」
「しかし、見事なお手並みでした」そうバーンが言えばカイは苦笑しながら言った。
「師匠の場合、手慣れてるだけだろ……。限界変態金欠師匠」
「変態しかあってませ~ん」「一番認めて欲しく無かったですね」
「そういえば、鈴さんは?」「疲れて、寝ちゃってるけど?」
「後片付けの量ヤバかったもんなぁ、俺も手伝ったけど」
「作るの全部鈴に任せちゃったからね、いつもの事だけど」
「まっ、次もお願いしたいし出来る事は全部手伝わないとなぁ」
そういって、新しくやってきた串焼きに手を付けた。
「しかし、味うっすいわねぇ。美味しいけどヘルシーみたいな?」
「そういって、ポケットから当然の様に胡椒出すのやめような師匠」
「胡椒ですって!」そこで、隣の席のやけに化粧と肉の分厚いおばさんが叫ぶ。
眼を血走らせて、ササラの手元をガン見している。
「何よ、ババア。これはあたしのよ」「おいおい」
カイが苦笑しながら、レディここは店の中ですしと窘めた。
「まぁ!、男前な彼に騎士二人とは……。妬ましいぃぃぃ」
「あいにく、カイ君は妹のだし。この綺麗な顔の騎士二人は、守備範囲外よ」
バチバチと、やっている女同士の間に入りたくないカイが溜息をこぼした。
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